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バイブが振動してメールの新着を知らせる。俺はノートパソコンから顔を上げるとジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出した。差出人を確認してからメールを開く。件名も本文もないメールには画像が添付されているだけだ。何だろうと疑問に思いながら画像をダウンロードする。そして表示された写真に思わず俺はふっと笑みを零した。向かいの席のアレク先生が不信げな顔でこちらを見る。それに何でもないよと笑い返して俺はノートパソコンを閉じると席を立った。職員室を出ると迷うことなく一直線に屋上に向かう。立ち入り禁止の屋上は鍵が空いていて、重い扉を押し開けると途端見事なグラデーションが視界に飛び込んできた。思わず目を見張る。
「マジックアワーって言うんだそうです」
こちらに背を向けたまま少女が言う。
高校の校舎に不釣り合いな明るい髪が藍色かかった空になびく。厚手のカーディガンにマフラーという薄着の彼女は寒そうな素振りも見せず、冷たい風の吹き抜ける屋上にぽつんと立って空を見上げていた。
俺は彼女の元へ行くと自分のジャケットを彼女の肩に羽織らせる。そこで初めて彼女は俺を見た。
「よくここだって分かりましたね」
小さな顔をぐるぐる巻にしたマフラーに埋めて彼女は言った。
「何となく…。あの写真を見て、絃ちゃんなら…ここを選びそうな気がしたんだ」
彼女が僅かに顔を綻ばせる。
「勝手に屋上に入ったこと怒らないんですか?」
恐る恐る問うてくる彼女に俺はふっと笑い返した。
「そしたら俺も一緒に怒られなきゃいけないな」
ぱちくりと瞬きする彼女の頭をぽんぽんと叩く。
「これから授業?」
「はい。今日は数学と世界史です」
「学校は楽しい?」
「はい」
即答する彼女に俺は微笑む。彼女のーーーミルクをたくさん入れたらこんな色になりそうなーーーミルクティー色の髪を掬いそのまま後頭部に手を添える。触れた彼女の唇は想像していた以上に冷たくて、それは彼女がこの寒い屋上に長い時間いたことを示していた。
「終わったらいつもの所で」
彼女の耳元にそっと囁くと、絃はこくりと小さく頷いた。






“Prenda il tè con latte”
やってみたかった現代パロで教師×生徒。だけど絃ちゃんは夜間高校の生徒です。リュカは普通科の教師なので直接は教鞭をとっていません。アレクが友情出演(笑)
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