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豪勢な車内でキコはハルと向かい合っていた。
「邸内の配置図は頭に入っているな?」
「はい」
「警備員の配置場所、交代時間も覚えているか?」
「はい」
「これから君がやるべきことはローガン=ブラッドレイの自室から“クラウン”を盗み出すこと。それ以外余計なことには絶対に顔を突っ込むな」
「…はい」
隣でリュカがくすりと笑う。
「まるで妹を心配するお兄ちゃんみたいだね」
ハルはちらりと横目でリュカを睨む。
「ともかくブラッドレイ家に着いたらあとは君とリュカだけだ。そのリュカも大広間まで。そこから先は君一人となる。計画は念入りに練ったつもりだがいつ何処で何が起きるかはその時にならないと分からない。その時君は自分で判断し行動しなければならない」
「…はい……」
ハルのどこまでも淡々とした声に心臓がどくんと跳ねる。怖い。だけど今更逃げ出せない。キコは膝の上で組んだ指をさらにぎゅっと握る。
しかしそんな思いと裏腹に車は小さくブレーキ音を響かせて停止してしまった。ハルがリュカを見る。リュカが頷く。
リュカはそっと硬く握りしめているキコの指をほどくと、両手で包み込むようにしてキコの手を握った。
「キコちゃん、まずは舞踏会を楽しもう。このリングランドの二大貴族の一つ、ブラッドレイ家の舞踏会だ、美味しい料理だって珍しい果物だって可愛いお菓子だってケーキだってきっといっぱいあるよ。それに舞踏会なんて言ったってつまりは権力を誇示させる場所だからね。大広間だってそれは豪華に飾り付けられているだろうし、参加する方もこぞって着飾ってくるはずだ」
リュカはキコを安心させるようにわざと戯けて言う。
「だからキコちゃん、まずは思いっきり舞踏会を楽しもうよ。こんな機会滅多にないよ。ーーー大丈夫。俺もハルもラッドさんだっている。ハルだってあんな冷たいこと言ってるけど内心君のことが心配でしょうがないんだよ」
キコは顔を上げる。不安気な瞳は、それでも真っ直ぐにリュカを見つめ返す。
「はい」
扉が外から開けられる。リュカがするりと車から降りる。そしてすっとキコに手を差し出した。
「お嬢様、参りましょう」
キコはゆっくりとその手に自分の手を重ねた。



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