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クロムウェル家の有能な執事直々の令嬢レッスンが始まって早一週間、午後三時のティータイムをハルと共に過ごすのがキコの日課となっていた。しかし今日は時間を過ぎてもサンルームにハルが姿を見せない。時間に厳しい彼にしては珍しいが、サンルームにティーセットが用意されているところを見ると一度はサンルームに来たのだろう。忙しい執事の身だからあらかた呼ばれて出ていってしまったのかもしれない。仕方なくキコは自分で紅茶を淹れる。が、一口飲んだところでソーサーにカップを戻した。
「うーん…これはアレクにこんな不味いの客に出せるかって怒られる味だな…」
アレクはブルーベルで研修担当としてキコにつけられた先輩ウェイターだ。顔はいいが口が悪く愛想がない割に接客もサーブも完璧で身のこなしも無駄に洗礼されており、さらに彼の淹れる紅茶も(本人には絶対言ってやらないが)とても美味しい。同じ茶葉を使い同じポットでお湯を沸かしアレクの言われた通りに紅茶を淹れているのに、アレクが淹れたものとどこか味が違うのだ。一度思わず「何か入れてるんじゃないの?」と訊いたら額を思い切り小突かれた。
「しょうがない、ハルさんが来るまで待つか」
ため息をつくとキコは手近なソファに腰を下ろした。その時だった。
「きゃああああ!」
「なっ?!」
突然廊下から聞こえた悲鳴にキコは驚いてソファから立ち上がった。何事かと廊下に飛び出すと、そこには異様な風景が広がっていた。
「リュカさんいらしてたんですね!」
「今日はもうお仕事終わりですか?」
「ご一緒にお茶していきませんか?」
整った顔立ちの柔らかな雰囲気をまとった男性が、どこからこんなに集まってきたのか生垣のように連なったハウスメイド達に囲まれて右往左往している。頬をバラ色に染めたハウスメイド達に困ったように笑いかけていた彼がふと視線を廊下の先に向けた。サンルームの前で立ち尽くすキコと目が合う。彼の目が驚いたように見開かれる。
「え、っと…」
濃紺色の髪に映える印象的な空色の瞳にじっと見つめられてキコは戸惑ってしまう。会釈でもした方がいいのかと悩んでいる内に「ごめんね、今日は先約があるんだ」と彼はハウスメイドの生垣をかき分けてキコの元へやって来た。そしてキコの耳元にすっと顔を寄せ、
「逃げるよ」
柔らかな声音でそう言うと返事も待たずにキコの手をつかみ一気に廊下を走り出す。
「え、ち、ちょっと……?!」
繋がれた手を振りほどこうともがくキコの手をさらにぎゅっと握って前を行く彼が振り返る。
「初めまして、俺はリュカと言います。ラッドさんから依頼を受けて君のサポートに来たんだ」
空色の瞳が優しく細められる。
「よろしくね、キコちゃん」



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