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ラッドの書斎を後にしハルに案内されたのは白色の家具でまとめられた清楚な雰囲気の部屋だった。キコに次いでワゴンを押しながら部屋に入ってきたハルが窓際の椅子にキコを促す。猫足の丸テーブルに手際よくティーセットを並べ、その横に綺麗な装丁の本を置いた。
「テーブルマナー入門書…」
「さっそく明日からレッスンに入る。時間はないが最低限のマナーや振る舞いは身につけてもらわなければならない」
「クロムウェルの名に泥を塗るわけにはいかないですもんね」
思わず皮肉が口から飛び出す。しかし意に反してハルは気まずそうに視線を反らした。
「これは君自身のためだ。君の身を守るために一通りこの世界の常識を教える」
「私の…」
「そもそも私は一般人の君を巻き込むことをよく思わない。だがラッド様が決めて君が承諾した以上私は私の勤めを果たさなければならない」
「………」
「それと一つ忠告しておく。君は賢い。だから必要以上に顔を突っ込むな。世間が思っている以上にクロムウェルとブラッドレイの溝は暗くて深い。ーーー二度と元の生活に戻れなくなるぞ」
淡々と話すハルの翡翠色の瞳をキコはまっすぐに見つめた。その視線を真っ正面から受けて、ハルは思わずふっと笑みを零してしまう。
「なんですか?」
明らかにむっとした声でキコが言う。
「君は本当に怖いもの知らずだな」
「…私は今褒められたんですかね。それとも馬鹿にされたんですかね」
「これでも褒めたつもりだ。あまり気にするな」
「はぁ」
気にするなと言われると余計に気になるのが人間の性というものだが、もうこれ以上ハルは何もいうつもりはないらしい。無駄なく完璧なまでのサーブでキコの前に湯気の昇るカップを置き、
「朝食は七時半だ。七時に迎えに来るので準備をしておくように」
と最後にそう述べてハルは入ってきた時と同じようにワゴンを押して部屋を出ていってしまった。
一人になった部屋でキコはハルがよく眠れるようにと淹れてくれたハーブティーを口に含む。優しい香りが口中に広がる。キコは背もたれに寄りかかると天井を見つめた。真っ白な天井に花を模したシャンデリアから零れた光が淡い模様を描いている。壁に飾られた絵画にしろ生けられた花にしろ、ここは明らかに女性のために作られた部屋だ。女性の姿が見当たらないこの屋敷になぜこんな部屋が用意されているのだろう。そこまで考えてキコは吹っ切るように首を左右に振った。
「ハルさんの馬鹿。あんな話されたんじゃ余計に眠れなくなっちゃうじゃん」



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