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「ところでキコ、君はこのリングランドについてどれくらい知っている?」
キコの向かいにゆったりと腰を下ろしたラッドは開口早々そう訊いた。
あの後ラッドに連れられて向かった先は彼の屋敷だった。迷子になりそうな長い長い廊下を進み案内された部屋が彼の書斎だと気づいた時、リコはもう逃れられないと唐突に悟った。通されたのが応接室であればまだ断ることもできただろうに、ラッドはキコのことを客として扱うつもりはないらしい。はなからラッドはキコがこの話を断われないこと(弁償するお金がないこと)を知っているのだ。
ラッドの表情こそ穏やかではあったが目は決して笑っていなかった。キコはゴクリと唾を飲む。
「ごく一般的なことしか知らないですよ。ーーー商業にしろ工業にしろこの国一発展している地域であり、またファッションやその他女の子が憧れるようなアイテム、スイーツの情報発信地でもある。そして」
キコは一度言葉を切った。ゆっくりとラッドの目を見つめる。
「二つの貴族が敵対している。たったの二代で鉄道業を成功させたクロムウェルと、ーーーカジノ王、ブラッドレイ」
ラッドはふっと笑みをこぼした。
「キコ、君は本当に賢いな」
ラッドはローテーブルの隅に置かれたワインレッド色の箱から一枚のコインのようなものを取り出した。
「これはリーガル?」
金色の包み紙ごと刻印されたその紋様はブラッドレイのもの。コインかと思ったそれはブラッドレイ直営のチョコレート専門店“リーガル”の代表的な商品ともいえるメダル型チョコレートだった。だがなぜこの場面でこれが出てくるのだろう。
「欲しいものがある。コインだ」
「コイン、ですか?」
「ブラッドレイが経営するカジノはすべて会員制になっていて、誰かしらの紹介なしに入ることは不可能だ。そしてそのカジノの会員証になっているのがとあるコインなんだ」
ラッドはそこまで話してテーブルの上のチョコレートを指で弾いた。ローテーブルの上を滑ったそれはキコの目の前でピタリと止まる。
「来週の土曜日、ブラッドレイ家で毎年恒例の秋の舞踏会が行われる。もちろんブラッドレイ一族や招待客しか参加できない。そして当たり前の話だが俺は招待されていない。そこでだキコ、社交界に顔の割れていない君に、一令嬢として舞踏会へ行ってもらいローガンの部屋からコインを取ってきてもらいたい」
「なっ……そんなの無理ですよ!第一私ダンスなんか踊ったことないし、お嬢様の振る舞いとか出来ないし、作法だって知らないし」
「いいや君なら出来るさ。頭の回転も早いし、第一度胸がある。この俺がクロムウェルだと知っても全く態度は変わらなかっただろう?それに君は断われないんじゃないか?」
ラッドの言葉にキコはうっと言い詰まる。そしてじろりとラッドを睨みつけた。
「あのカップはわざと私に落とさせたんですか?」
「さあな」
ラッドはキコの頭をぽんぽんと叩く。
「賢い子は嫌いじゃない」



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