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「あ、」
無情にも差し出したキコの指先をすり抜けて、カップは落下していく。そしてそれは予想通り鋭い音を響かせて二人の足元で砕け散った。
「すみません!!!」
すぐさましゃがみ込み破片を拾おうと伸ばしたキコの手をラッドはやんわりと阻止した。その手をつかみキコを立たせる。
「怪我をするといけない。ハル」
ラッドは後ろに控える執事の名を呼ぶ。ハルは小さく頭を下げると部屋を出ていく。程なくして戻ってきたハルの手には箒とちりとりが握られていた。
「ごめんないさいラッドさん…このカップ、ラッドさん専用だって聞きました。私に弁償できる金額なのか分からないけど…、私弁償します!」
「いや急に後ろから声をかけた俺もいけなかった」
「でも!専用って言うぐらいだからお気に入りだったんでしょう?!」
「まぁお気に入りと言うか、我が家に代々伝わるカップではあったな」
「我が家?」
不思議そうに首をかしげるキコにラッドは苦笑してカップの破片をそっとつまみ上げる。白い磁気に薄っすらと浮かび上がる紋章。それを見たキコの目が大きく開かれる。
「これは…」
この国の住民誰氏もが知っていると言っても過言ではない、それほどに有名なリングランドの貴族、その紋章ーーークロムウェル。
むっつり黙り込んでしまったキコに、ラッドは肩をすくめて戯けて見せる。
「ところでキコ。先ほど君は弁償すると言ったが面接でこの店を選んだ理由に『この辺りで一番給料が良かったから』と答えた君にそんな金があるとは思えない。だから」
ラッドの言葉にハルが目を丸くする。ラッドはその長い指で俯くキコの顎を持ち上げた。
「君にはその身体で代償してもらおう」
「ーーーは?」
ぽかんと口を開けたキコに、ラッドはにやりと笑った。
「今日から君はラッド=クロムウェルの妹となってもらう」



“poker” 〜prologue〜
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