★黒木の素朴な疑問に、私は思わず頭を抱えた。確かに私のキャラや性格を考えれば他人に喫煙現場を見られたぐらいて禁煙するようなタイプじゃあない、寧ろ「吸ってますが何か?」と開き直るタイプである。二郭に、黒木は私が自発的に煙草を辞めるを待ってる、と言われたが、例えそうだったとしても本当に辞めるなんて微塵も思ってなかったに違いない。だからこそ、私に聞いたのだ。どうして煙草を辞めようと思ったのか。これが黒木以外の人間なら「好きな人に嫌われたくないじゃん?」なんて笑って言えるけど、まさか本人に向かってそんな事言えない。チャラい格好をしているけど、私は意外に乙女なのである。 ★じっと私を見ている黒木から視線を逸らし、グルグルする頭で誤魔化す言葉を必死に探す。けれど上手く逃げようと考えれば考える程テンパってしまい、全身の血液が沸騰するんじゃあないかと思う程体温が上がっていく。泣きたい、泣いてしまいたい。視線を逸らしているというのに黒木が私を見ているのが分かる。そんなに見詰められたら溶けてまうがな!ばっかやろう! 「い、言わなきゃダメ?絶対ダメ?」 「ダメって事は無いけど…何?そんなに言い辛い事なのかい?」 ええ、そりゃ物凄く。なんて事は言える筈もなく、半泣きになりながら頭を抱える。もう空気になってしまいたい。二酸化炭素でも言い、黒木が見えなくなる何かになってしまいたい。不思議そうな黒木の視線を感じながら、テンパり過ぎて込み上げてくるものを必死に抑える。こういう時に上手く嘘をつける程、私は頭の良い人間じゃない。 「聞いたって、なーんにも面白くないよ?全然つまんねーよ!」 「面白くないかどうかは僕が決めるよ」 苦し紛れの言葉は、バッサリと切り捨てられました。加藤が言っていた、黒木は空気が読めない訳ではないけど、真面目過ぎるが故に空気を読まない事があると。正直何を言ってるか分からなかったが、今なら加藤の言っていた言葉の意味が分かる。これだ、この事を言ってたんだ。大抵の人なら私の言いたくないオーラを読み取るけど、疑問を解決したい黒木には私の放つオーラは読み取れないのだろう。頭良い奴って面倒!と思いながらも、そこが素敵!なんて思う自分も居て…私、大分混乱してる。すんげぇ混乱してる。 「…そんなに言い辛い事?」 「わ、私には言い辛い」 「どうして?」 お前分かってて聞いてんだろ?そうなんだろ?最早私のHPは0だ。ちょっと頭を小突かれたら間違いなくバーンってなる。頭粉砕する。今なら屋上から飛び降りられるよ助けて二郭。 「ねえ名字さん、どうして?」 テンパっているのが分からないのか、追撃を加える黒木。最早パニックを通り越した私の頭は、フリーズ状態に陥りそうだ。そのせいで折角抑えていた涙がボロボロと零れ落ち始めた。度重なる黒木の攻撃に、とうとう身体が限界を訴えた瞬間であった。突然泣き出した私に、黒木は驚いたように目を見開いたが、次の瞬間には懐から取り出したハンカチで私の涙を掬っていた。何時もならキュンとする場面だが、今の状況でキュンキュン出来るスキルはない。うぇっ、と可愛くも何ともない声を発しながら黒木に涙を拭われる。子供か、私は。 「…言い辛いって言ってたのに無理矢理聞いちゃってごめん。嫌だったよね」 「うぅ…っ」 「もう聞かないから安心して」 泣きじゃくる子供を相手にするかのように、黒木は私に優しく声を掛ける。いきなり押し掛けて(これは二郭のせいでもある)、しかも自己満過ぎる報告をして泣きじゃくるなんて…私なんて死ねば良い。迷惑をかけた黒木に謝りたくて此処に来たのに、逆に迷惑をかけてどうするんだ。黒木に申し訳ないやら自分が情けないやらで、最早滝のように涙が流れる。こんなに泣いたのは夏休みにフランダースの犬を見た時以来である。 「うぇっ…」 「…」 泣き止む様子を見せない私に黒木は一つ溜め息を吐くと、何を思ったのか私の後頭部に手を添え、自身の肩口に私の頭を押し付けた。突然の事に呆然とする私を知ってか知らずか、黒木は何も言わずに私の頭を撫で始めた。大きくて優しい手の平が、壊れ物でも扱うかのように頭を撫でていく。黒木は私を泣き止ませようとしてこういう手段(母親が子供をあやすような行動)に出たのかもしれないが、密かに黒木を思っていた私にとって黒木の行動は、感情を更に高ぶらせるスイッチでしかない。ふんわりと鼻先を擽る黒木の匂いだとか、しっかりとした肩だとか。触れたくても触れられなかったものが今目の前にあって、私は今、それに触れている。興奮なのか、それともあまりに幸せ過ぎる状況に脳みそがスパークしたのか、一瞬視界が真っ白に染まった。そして、次に瞳が色を映し出した時。私はすがりつくように黒木の背中に腕を回して居て── 「くろき、すきっ」 良く分からんうちに愛の告白とやらをやっちまってました。 |