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285.「まなざし」


285.「まなざし」


長い黒髪が、節張った武骨な指をさらさらとすり抜けて、畳に落ちる。
その様を紫煙越しに眺めたラインハルトは、されるがままの丸い小さな頭を軽く撫でる。
そして、灰皿に灰を落としてから、大きな手には些か不釣り合いな小さい椿の彫りが入った柘植の櫛を取り出した。


「かなり伸びたな、もう尻まで隠れるだろ」

「そうですね。……お陰様で傷みもなく」


くすくすと笑う雲居の髪を、今度は指ではなく椿油を染み込ませたそれで、ゆっくりと丁寧に梳いていく。
油が髪に馴染むまで、淀みない動作で何度も繰り返すラインハルトに、慣れたものだと雲居は笑う。


「、……何だよ」


口に着物の袖を当て、小さく声を漏らして破顔する雲居を鏡越しに睨むラインハルトの声は訝しげだ。
まあ睨むと言っても、ラインハルトの表情パターンにおいては怒りというより真顔の内に収まる程度だが。(普段の表情から既に怖いとかそういうアレは禁句である)

そんなラインハルトの視線に雲居は、怯むでもなく楽しげに笑みを深める。


「だから何がそんなにおかしいんだよ。ほら早く言え」

「いえね?……いつまでこうやってお手入れして貰えるのかな、と思いまして」


雲居の台詞に一瞬きょとんと目を見開いたラインハルトは、少しだけ目尻を弛ませて、知らねえよと煙を吐いた。





二人は仲良し。



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