中・短編 | ナノ



由仁を家に誘えぬまま月日は過ぎて、幸村は付き合った女子に全くそういったことを強要しないまま大事にする紳士なのだという噂がたってしまった。男として名誉なのか不名誉なのか分かりづらい称号だ。紳士という言葉だけ考えれば名誉っぽくはあるが、好いた女子に手を出すことが出来ず地団駄を踏んでいる現状では物凄く不名誉に聞こえる。

佐助の粋な計らいにより放課後は毎日二人きりで帰れるのだが、結局幸村に出来たのは勇気を振り絞って手を繋ぐことを提案するくらいだった。それも、言葉が詰まってなかなか「繋ごう」と言い出せず、手を広げたままつつつつつつつつと壊れた機械のように「つ」を繰り返していた幸村を見かねた由仁の方から繋いでくれたのだ。情けないことこの上ない。初めて帰り道で手を繋いだとき、由仁の手の小ささとか柔らかさとかするりと幸村の手の甲を撫でた親指の動きとかにそれはもうナニがギンギンになってしまったなんてことは情けなさの極み過ぎて墓場まで持っていくと決めた。


ああ、食べてしまいたいと思う。目の前の純朴そうなこの可憐な少女を己の汚い欲望で染め上げたいと思う衝動は拭っても拭っても腹の底から湧いてきた。ぱくりと一口で、食べてしまいたい。
そのためにはとりあえず彼女の家に上がり込むなり自分の家に呼ぶなりするしかないのだが、そもそもどうやれば家に呼べるのか、それがわからなかった。小学校で女子と男子の性器は違うことを習い、中学校で適度なオナニーは精神衛生上重要なことだと学んだのだから、高校では好いた女子を部屋に呼ぶ方法などを習うのだろうか。違うか。

幸村が一人悶々と由仁を家に連れ込む算段を練っていたところに、颯爽と助け船を出したのはまさかの由仁本人だった。


「幸村さ、」
「あ、ああ。」
「今日これから暇?」
「……暇、だが」
「よかった。それじゃあ、どこか行かない?」

二人で。恥ずかしそうに桜色の唇がそう紡いだのを見て天を仰ぎ出さなかった自分を誉めたい。神はいるのだ。

「そ、それならばその、お、おれの」
「うん?」
「お、おおお、おれの、い、」
「い?」

いー?と。幸村の真似をして口を「い」の形にした由仁がたいそう可愛くて、その可愛らしい顔を見ていたら罪悪感で胸がぎゅるぎゅると抉られる。ああ今、おれの心の中の何かが死んだ。

「っいちばん好きな、ケーキ屋などいかがか」
「ケーキ?いいね!そうしようか」

ここで躊躇ったりするからいつまで経っても童貞なのだおれは!
思わず滲んだ涙は欠伸で誤魔化した。







頑張れ童貞のおれ!





back
(140218)




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -