名前変換 刈安色 「お前な!そんな妙な色を着るんじゃねぇっ」 「そう言われましても」 私を怒鳴りつけるこの男。私の父が仕切る商社の提携先、伊達コーポレーションの幹部を務める片倉小十郎。見た目はあまり良い印象を与えないが、言動で誠意全てを表す引く手数多の男。私、十八歳ですが、彼を慕っています。 さて、ここは私の家。今日の夜に向かうパーティーの仕度を終えた政宗さんが片倉さんを連れて、父を迎えに来た。私も出席しなくてはいけないからとパーティードレスに着替えたところ、片倉さんからお叱り。 母は父に着物を見せびらかせに行って、政宗さんは私のベッドで笑ってる。深い蒼のネクタイが政宗さんのカラー。 「だから、ダメだ!」 「どうしてですか?好きなんですよ、刈安」 刈安色は鮮やかな黄色。本当は橙が混じった色にしようかと思って、やめた。理由は簡単。私が黄色系の色を好むから。母は桃色のパーティードレスを選んで、クローゼットに押し込んでいったけれど。 「小十郎、なまえに似合わないだけじゃないだろ?」 「え」 「政宗様!」 ニタニタ笑い出した政宗様はズレた右目の眼帯を直して、説明してやれよと肩を怒らせる片倉さんに更にニタニタ。 「なまえ、その色ではないが黄色は徳川商社が纏うだろうからやめとけ」 「何で?」 「お前が良くても、徳川と敵対する石田に目をつけられる。皮肉厭味をイヤというほど聞くことになるぞ」 「でも」 でも、私が刈安色を選んだ理由はもう一つ。少し前に母の着物巡りに回った時に知ったこと。昔、刈安色が庶民や民衆を代表する大衆的な色だと。それならば、継ぐかどうかは別にして、良い印象になるんじゃないのかしらと思った。 「なまえ、お前が今日会うのは同じ系列だ。社長だとか会長だとか」 「まぁ」 「今度にしろ」 片倉さんは私のクローゼットから勝手に桃色のパーティードレスを取り出して、押し付ける。今度ねぇ。 「今度着る時はそばにいてくれますか?」 「あ?政宗様のそばにいれば必然的にな」政宗様第一なところも素敵ですが、今回ばかりは引きません。たまには私を、政宗くんの友人としてではなくて女の子として見てもらわなくちゃいけませんよね。ね、政宗くん。 「絶対に」 「あぁ…」 「HA!話は纏まったな。なまえ、早く着替えろ。長曾我部より遅れる訳にはいかねぇ」 私の考えが分かった政宗くんは首を傾げる片倉さんを引っ張って、部屋の外へ。代わりに母が入ってきて、手伝おうかしらと楽しそうに手を合わせる。 「片倉くんは気難しいから、すこーし大人っぽくしましょうねなまえ」 「お願いします」 着替えた私をドレッサーの前に座らせる母。ほんのりと香る甘い匂いに、くらくらする。これに父はやられたのか。 「やあね。まだ早いわよ」 「そう?」 「十分よ、なまえ。私の腕を信じなさい」 扉の向こうにいる片倉さんを思い続けて何年。いっそのこと気付いてしまえば良いのにと政宗くんにぼやくと、目を丸くした。 「アイツは疎いから有り得ねぇ」 「そう」 政宗くんの言った意味が分かったのは、暫く後のこと。時々、政宗くんの迎え運転手を代行する片倉さんに一目惚れした女の子がひたすらアタックし続けていたある日のこと。 「好きです」 「ん?政宗様には自分で伝えろよ」 そう、眼中にない。世間一般では愛でられる年頃の私たちに興味がない。悲しくて涙が出る。 母に支度をされた私はそっと廊下に押し出された。政宗くんはニヤニヤして、たまには良いんじゃねえのとネクタイを玩ぶ。そして、本命はというと。ジッと私を見て、政宗くんと顔を見合わせて笑った。素敵だ。 「やっぱりこっちの方がいいな」 「似合います?」 「そらそうだ。大人っぽ過ぎねぇし子供っぽくねぇしな」 「それだけ?」 思わず頬を膨らませた。こんな子供っぽい仕種が受けるとは思わない。それに女受けが悪いから、あまりやりたくはない。でも、いまいちな反応についつい。 「おい」 政宗くんがそっと離れたの確認した片倉さんは私の頭に手を乗せた。そして顔を近づけて、囁いた。 「あまり政宗様と仲良くするなよ」 「え…」 「まだ十八だ。時間は沢山ある」 車のキーを片手に立ち去る片倉さんはニヤリと笑っていた。もしかしたら、感づかれていたのかもしれない。私が片倉さんが好きなことを。政宗くんの読みは外れていた。 刈安の着物、父に誕生日でおねだりしようかしら。そう呟くと母に、成人式用にしなさいなと笑われた。 でも、二年先まで隣にいてくれないってことにならないかしら。本当に困る。大人はいつも上手に子供を丸め込むのだから…。 それでも今日は片倉さんの匂いが纏わり付いているような気がするから良しとしましょ。 <<彩りで世界を染めて |