迫りくる白に、驚きで一瞬息が止まった。ふわりと鼻孔をくすぐる香りに、心臓が跳ねた。
冷たい壁につけていた背中には、自分のより一回りも逞しい腕が回され、熱が伝わってくる。
「ちょっ…先生…」
「…」
「…誰か来たら、また変な噂立てられる」
「ここには誰も来ない。下校時間は過ぎているからな」
「…離せよ」
「…すまない」
「…謝るんなら離せ」
「違う。…嫌がらせのことだ」
ドクン、と脈打った。
自分は嫌がらせのことなど、誰にも悟られないよう振る舞ってきたはずだ。かすり傷のある腕や足も、見せないようにしてきた。
なのに、何でこいつはそのことを…、
「…別に、あたしはあんな幼稚な嫌がらせ、何とも思わねえよ」
「お前がどう思おうが勝手だが、…俺が我慢ならない」
その言葉に、頬が熱くなる。
「何…、言って…」
かすれた声で呟けば、体をそっと離され、その手は肩に置かれる。目の前の端正な顔を見上げれば、ハーフの証である金色の瞳と目がかち合う。視界には、彼の顔しかない。
唇が開いて息を吸う瞬間がわかるほど近い距離…
「…いいカモが、傷モノになっていくのは厄介だからな」
その言葉に、期待する心がガラガラと音を立てて崩れた。それと同時に安堵もした。教師と生徒の関係を越えることは、自分にはできない。
「…いいカモだとぉ!?」
「うるさい、そこはどうでもいい」
「どうでもよくない!」
「…とにかく、我慢するな。…辛かったら、助けてやらないこともない」
噫、でもやっぱり時折見せる優しさが、どうしようもなく嬉しい。
「…あり、がと…」
(だから、柄にもなく素直に礼だって言えちまうんだ)
放課後、準備室で