「俺はな。立派な警察官になりたい」

それこそ。道を聞かれて笑顔で答えてあげられるような。
気軽に話しかけてもらって、優しくて頼れると思われるような。

『ずいぶんと簡単な夢じゃねーか』

そんなの、自分を殺してヘラヘラ笑ってりゃいーんだろ?

にやにやと笑いながら腰をベンチに下ろす俺に、「違う」と彼は怒ったように言った。

「その意見には大いに苦言を呈したいな、刃。
世の中にはな。そんな簡単なことも出来ない奴らが多すぎるみたいだからな」

まったくいただけない――と、彼はため息をつく。

『ふーん。俺に説教してどうすんだよ。
つーことはよ。お前は聖人君主になりたいわけ?悪人も善人も等しく愛そうって?』
「刃は察しが悪いな。
俺はそんなこと一ミリも思ってない」

彼はふっと笑って、大きな拳を握った。

「俺は死ぬべきやつは死ぬべきだと思ってる」

聖人じゃない。ましてや君主なんかごめんだ。と彼は固い調子で言った。

『ふーん』と俺はその調子とは真逆の軽い口調で相づちを打つ。

『俺は正義とかよくわかんねーけどよ。
死ぬべきやつは死ぬべきってのは賛成だな』

でもよ。と俺は続けた。

『死ぬべきって思うその基準がすでに悪なんじゃねェの?』

例えば、非日常を求める少年。

例えば、過去に囚われた少年。

例えば、愛を知らない少女。

そして、正義しか知らない警察官に、殺すしかない殺し屋。

誰も彼もが正義を唄い、悪魔のような諸行をする。

そこに正義はあるのだろうか?

悪だの正義だのは結局その人のものさしでしかない。

絶対的な正義なんてない。あるのは相対的な正義だけ。

『つまり、死ぬべきやつなんて、この世にはいないんだよ』

俺の言葉に彼はシニカルに微笑んだ。

「その言葉が、正義漢っぽいけどな」

お前は優しいな。刃。という彼に、
『人を良い人扱いするんじゃねぇ』
と、俺は苛立たしげに答えた。







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