その時、爆走する車の前に、脇の道路からトラックが飛び出してきた。
「ふせろ!!」
神楽の叫びに反応して三人の頭を掴んで抱くように引き寄せる。
目をつぶると同時に衝撃が全身を襲って、きた。
トラックに急ブレーキのまま突っ込んだらしい。
激突の余韻ときんきんする耳。
収まったあと、すぐに皆に叫ぶ。
『無事か!!』
「僕は、なんとか……正臣と園原さんは……」
「無事っぽいぜ……何事だよ、いったい」
「私も大丈夫、です。刃くんは、」
『俺は平気、
おい!神楽!未玲!』
「刃くん……!」
泣きそうな未玲の声に、血の気が引く。
「かっ、神倉さんが……!」
自動車が事故を起こしたとき、運転手は無意識に自分を守ろうとハンドルをきる。
神楽はとっさに逆のことをしたらしい。
未玲はほぼ無傷だ。
運転手の神楽は頭から血を流して倒れている。
『ーー神楽!!』
ドアを開けて運転席に駆け寄ろうとする。
ーーと。
「重傷ですね。好都合。
重いものは好きですから」
鈴の転がるような、軽い声に行く手を阻まれた。
『誰だ』
「失礼。
私、青島と申しますがーー」
軽くお辞儀をした男は、手足が長く、柳のような雰囲気を持った黒スーツだった。
神倉もスーツだが、それとは明らかに値段の違う漆黒のスーツ。
死神のような。
「貴方がたには“物語に挟まれた麻薬”の持ち主といえば分かるでしょうか」
『かっこつけだな。
あんな量の麻にハリウッド並のカーチェイスかます馬鹿』
「馬鹿?軽い言葉ですね。
軽いものは嫌いです」