「あのぅ……」
『なに、杏里?』
「後ろから、人が来てます。……たぶん20人くらい」
聞くやいなや神楽は車を発信させた。
急発進に、俺らは団子のように絡まってシェイクされる。
『神楽!!』
「なめんな、振り切れる」
『「じゃなくて、安全運転!!!」』
みんながハモった。
「おい刃!
後ろから車が来てるんですけど?!
しかも黒塗りの!
馬鹿なの?死ぬの!?」
「安心しろ坊主。
いざとなったら相手をコロス」
『警察のセリフじゃねー!!!』
「黙れ社会人不適合者。
守ってやるだけありがたいと思え!」
猛スピードで走る車の中、見ると未玲は目を回して真っ青な顔をしていた。
大丈夫か!と声をかけようとすると車が右によった。
走り去る景色の端、窓を何か横切る。
「なんだ!!銃か!?」
「そんなわかりやすいのなら良かったんだけどな……!」
危険だと思ったが窓から顔を出して今し方避けた物を見る。
「な、な、なな、なんだった?刃くん!」
どもりまくった帝人に、俺は引きつった笑みで、ぜってー顔出すなよ、と言った。
『たぶん……濃硫酸』
帝人、杏里、正臣、未玲の顔が一様に青ざめる。
あれが当たってたら、量にもよるが皮膚はずたずただ。
「ほ、本気……?」
帝人の絶望的な声に答えるものはいない。
緊迫した空気が流れた。
誰もが気付く。
事件に巻き込まれた。
「あのぅ……!」
『未玲。考えてることは分かるが、神楽の警察手帳を見せたって状況は変わらないぞ』
この街中で、いきなり濃硫酸を投げつけるイカれたやつらだ。
おまけにクスリまでやってる。
暴力に訴えてこないわけがない。
『おい、杏里』
だが、解決策がないわけじゃない。
俺は誰にも聞こえないように、こっそりと杏里に耳打ちした。
『どうだ。相手は20人、濃硫酸まで持ち出す常軌を逸したくそったれだ、
勝てるか?』
「刃くんと私がいれば、確実に」
『しかも一般人を守りながらだぜ?』
「相手も支配せずに倒す自信くらい、あります」
『大言だね』
「貴方がいるからですよ」
杏里は小さく笑った。
「貴方がいるなら、私は戦えます」
なんか照れるにゃー。