「ブラックカードなんて初めて見ましたよ私……!!」
ブラックカードを持ってガクガクと震えている三玲。
杏里が基本的な質問をする。
「ブラックカードってなんですか……?」
三玲が天に掲げて持ったカードを見て、事態をわかった帝人が答える。
「ええとね……簡単に言えば世界クラスの金持ちが持ってるキャッシュカードってこと」
「すげえ……ブラックカードって……羽島幽平も持ってるかわかんねえのに」
正臣が呆然とつぶやく。
神楽が珍しく額に汗してこちらを向いた。
「誰のカードだ?」
『安心してよー合法だから。
それよりも質問するべきことがあるんでない?』
「こ、このブラックカードで私、なにを、すれば」
来良三人も俺を見つめる。
神楽だけは冷静に事態を把握したようで、首を振る。
『だからさ?
買い物依存症なんだろ?
だったら買い物に飽きるまで買い物したらいいじゃん』
「ブラックカードで!?」
『あ、大丈夫。ここカード使えるから』
「そういう問題じゃないと思うよ!?」
『うん?
まぁ三玲が嫌って言うなら止めとくけど』
三玲は拳を握り、ブラックカードを見て、神楽を見た。
「わ、わかりました……!」
「霧崎……」
「大丈夫です。神倉さん。
結局自分じゃどうしようもできなかったし、これくらいの荒療治のほうが……えっと」
神楽がため息をつく。
「俺は情報屋のつてとかで、腕のある精神科医を紹介してもらうつもりだったんだが……」
神楽が本屋のドアを開ける。
観念したらしい。
『じゃあ好きなだけ本買っちゃって!三玲!』
それからの三玲はまるで獣だった。
喋る時間も惜しいとばかりに無言で本を物色し、吟味し、喰い荒らさんばかりに本を買い……。
(これはこれで作者冥利につきるだよなぁ……)
あんなに真剣な顔で、あんなに嬉しそうな顔で、本を買われたら。
「ふー!買いましたね!!」
(神楽の)車の中で爽やかな顔で笑顔を振り撒く三玲。
泣き顔以外もできるんじゃねぇか……。
トランクには異様な冊数の本が埋まっている。
というかトランクに入りきらなくて後部座席や助手席に侵食している。
「ありがとうございます、刃さん……」
三玲が照れたように首を折る。
「私、こんなに清々しい気持ちで本が買えたの久しぶりです」
『そりゃ良かった』
俺は歯を見せていたずらっぽく笑う。
『また買いたくなったら言えよ』
「ど、どうでしょうねー」
困ったような三玲に、帝人たちも神楽もうっすらと笑った。
「あ、買った本読んでもいいですか?」
「酔うぞ。霧崎」
「ちょっとだけ」
袋を開ける三玲――
「あれ?」
が、不思議な声を出した。
「なんだろう、この本……?」