「私、昔から本を見るとついつい買っちゃって。
それが文庫でもハードカバーでも古典でもライトノベルでも面白くてもつまらなくても。
関係なく買っちゃうんです。
最初は1ヶ月に一冊とかだったのに。
だんだん買う量が増えてきて。
我慢しようとしても定期的に数十冊買わないと不安になって。
最近その頻度が増えてきて、お金が足りなくなって……」
「……本屋で万引きしてるところを捕まって、俺のとこに来た」
『なに万引きしたの?』
「お、小野不由美の黒詞の島と白水社のマクベスを」
『うっわ。友達になれそうだけどさぁ。
万引きってのは作者に儲けがいかないってことなんだよ?
つまり万引きってのは執筆活動を邪魔する最ッ低の行為なんだよ?
いくら買い物依存症でも許されないてか許さない。
そこわかってる?』
「はい。――すみません」

また泣くかと思ったが、案外、三玲は唇を引き締めてうなずいた。

こりゃ警察でこってりしぼられたな。

反省はした。
なら許されないことはない。


「でな。話ってのはこの三玲さんをどうにかしてほしいんだよ」
『どうにかって……。
なに?どうしてそんなに三玲さんに入れ込むの?』
「中学の同級生だ」
「世界狭ッ!!」


俺が叫ぶ。

三玲は照れたように目をこすっているが、万引き犯を捕まえたら中学の同級生だった神楽の心境を考えると微笑ましいわけがない。


「買い物依存症かぁ……。
やっぱり精神科かなぁ」
「他のものに興味を移すのはどうですか……?」
「つまり恋だな!愛に目覚めれば本離れもできる!」
『おいお前ら。
特に正臣。
真面目に考えろ』
「真面目だよ?」
『帝人はな』
「ごめんなさい」
『なんで杏里が謝るの!』
「そうだよ杏里。なんで謝るんだ?」
『てめぇだよ!』


クスクスと三玲が笑う。

笑顔は泣き顔より素敵だぜとキザかつベターなセリフを言うつもりはない。寒いし。


『よし。わかった。
俺が三玲のために一肌脱いでやる。
一肌どころじゃねえ。
全裸だ』
「猥褻物陳列罪でしょっぴくぞ」
『俺のどこが猥褻物だ!?』


なんかすごい三玲が笑いをこらえてる。


「ありがとうございます。
でもこの依存症が簡単に治るかどうか――」
『安心しろ。
壊れたものを直すには二通りある。

優しく直すか。
乱暴に直すか。
どっちかだ』


というわけで今、俺たちは有名な古本屋にいる。


『俺が選ぶのは、乱暴に直すほうだ』


本の山。

ここならハードカバーもライトノベルもペーパーバックもよりどりみどりだ。

三玲はよだれも垂らさんばかりに魅惑的な本の山を見つめている。


『じゃ、三玲。はいこれ』


俺は三玲に「カード」を渡した。


「刃ー?
こんなとこ来てどうするつもり?」


正臣の不思議そうな顔。

神楽も帝人も杏里もわけが分からないという顔をしている。

その答えはすぐに分かることになる。

三玲が「カード」を手に悲鳴を上げたから。


「ぶっ、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶブラックカード!!!!?」


俺はにやりと笑うと、高らかに叫んだ。


「さぁ!
そのカードで……好きなだけ!飽きるまで!本を買え!!」





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