よく喋るウザヤ








「ねえ、根源を考えてみようよ。物事には全てそれがそれたる理由があり、原因があると仮定する。例えば人類の進化。目は世界を見るために、耳は音を聞くために、口は栄養を補給しつつ、さらに媒介に使い、声というもので意思の疎通をはかる。…ほら、簡単だろう?じゃあ応用。この仮定が正しければ君のその力は何の為に生まれたんだろうねえ。破壊かなぁ、殺戮かなぁ。どっちにしろ良いものではないよね。プラスの方向のものじゃない。ああ、まあ破壊からの創造というものももちろんあると思うよ。破壊は創造する為にあるとか言うもんね。とにかく、行き過ぎた力はモノを壊してしまう。それがただのモノならいいけど、例え生きているものであっても加わる力は変わらなかったら、どうなるんだろうね。ヒトはモノと違って作り直しが聞かないから…まあ、あの世とか来世とか輪廻転生を信じているというなら別問題だけど…そんな、証明もされてない不確定な要素を信じるよりも「死」という絶対的なものを信じる方がずいぶんとマトモだと思うけど。さて君はどう思う?どう
いう理由で君はその力を得るに至ったんだと思う?」


うぜぇ。

臨也の話が長いのは今に始まった事ではないが、今日のは特に酷い。長い上に分かりにくいのだ。

ペラペラと長ったらしく喋り倒しやがったが、要するに、俺の力は何の為にあるかって事だろう。そんなのはこうにきまっている。


「小難しい事はよくわかんねえが、少なくとも今手前を殺すために存在してるのは確かだな」

「あっは何それ。全然聞いてないじゃん、俺の話」


臨也はからからと笑い、ポケットから手を出して広げ、バランスを取りながら縁石の上を歩く。


「…まあシズちゃんがそう言うならそうなのかもしれない。なんたって張本人が言うんだからね、うん。君の力は俺を殺すためにあるー…そう考えてみようか」


一歩一歩、高く足を上げて、わざとらしくふらふらとしながら歩く。広げた両手を時折ぐるぐると回してバランスをとる様子は、まるでガキのようだった。


「シズちゃんの力は俺を殺すために生まれた。うん、それはひどく興味深いね。俺を殺すための力なんだから、シズちゃんの力によって俺は死ななければならなくなる。…ああもちろん、シズちゃんじゃない誰かによって俺が殺されるという可能性が無いわけじゃない。なに、力の形が違うだけさ」


縁石の上をふらふらと歩いていたかと思えば、ふいにぴょん、と飛び降りて、近くにあった標識に片手で掴まりぐるぐると回る。
そんなアホみたいな事をしながらも、こいつの口は止まらない。


「シズちゃんの場合、力、イコール、筋力というシンプルかつストレートなものだけど力なんて色んな意味に置き換えられるよね。能力と言うと分かりやすいかな。例えば俺を殺すための毒を調合する力。俺を殺すための銃を心臓に当てる力。俺を殺すための罠に嵌める力。…ね?たくさんあるでしょう」


遠心力を利用したのか、俺の目の前まで一歩で飛びこんだことに少しびっくりし、半歩ほど後退りする。


「…で、何が言いたい」


続きを促すと、臨也が俺の唇に指を軽く押し当てて、にこりと笑った。


「そう焦らないでよ。…要するに、俺を殺すのにたくさんの方法が有るということなんだ。君やセルティやどっかの妖刀と違って俺はただの人間だからね。さっき君は「俺を殺すための力」だと言った。君は俺を殺す力を持っている。それなのになぜ、未だ俺は生きてるんだろうね?」

「…手前が逃げるからだろ」


押しつけられた指を振り払う前に臨也が指を引っ込めたせいで、俺の腕は空を切った。そんな様子を見て臨也がふふふ、と笑う。
なんとなくからかわれているような気がしてイラっと来たが、俺が舌打ちをする前に臨也が口をひらいた。


「聞き方が悪かったかな。君は俺を逃がさない力も持ってると思うよ。それなのに何で俺は生きてるんだろう」


くるりくるりと両手を広げて回る臨也のコートがふわりと揺れる。漆黒の髪は風に遊ばれてなびく。しばらく楽しそうに回り続けていた臨也だが、やおら動きを停止して、顔だけをこちらに向けた。


「ねえ、シズちゃんは本当に俺を殺したいの?」


挑戦的な瞳が俺を捕える。もう逃げられない、と頭の奥で警鐘が鳴った。




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