ぎりぎりと首を締め付けられ、そのまま身体が宙に浮く。
左腕の腕力だけで俺の身体が持ち上がってるんだから、ホントにシズちゃんって馬鹿力だよね。


「くるっ…し、よ」

「そうか」


苦しいと訴えても力は気持ち程も緩まない。仕方ないと首を掴む大きな手に思い切り爪を立ててみるものの、全くもって肌に爪を立てている気がしない。どちらかというとフローリングの床を思い切り引っ掻いているような、そんな感覚だ。
肌という名のはずのそれは少しも俺の爪を受け入れず、暗に「これ以上力を入れたら爪が割れるぞ」と脅しているようにさえ思えた。
そうこうしている間にも酸素はどんどん失われている。ヤバイ。


「か、はっ…ちょ、っと」


足をバタバタさせて抵抗してみても無駄な体力を使っただけで力は緩まない。シズちゃんは余裕で、片手で器用にタバコをくわえてライターで火さえ点けながら、「放してほしいか」と聞いた。
放してほしいか、とか聞くまでもないでしょ。ただ、俺の中のエベレストなんかよりずっとずっと高いプライドという名の山が「放して」と素直に言うのを邪魔する。
どうにか論破したいが、この状態では満足に喋ることもできない。
かといって、もう酸素は限界だ。四の五の言ってる場合でもない。俺は最終手段に出た。


「……シ、ちゃん」

「あ?なんか言ったか」


わざと小さな声を出し、シズちゃんの注意をこちらに向かせる。俺の声を聞き取ろうとシズちゃんが顔を近付けたとき、その一瞬をついて全力でその唇に噛み付いた。


「んむっ」


狙い通り、シズちゃんの腕力は一瞬緩む。その刹那を見逃さず思い切り腹筋を蹴り付け、その反動で後ろに跳躍する。ここまでは計算通り。ただ一つ計算外だったのは腹筋を蹴りつけたはずのシズちゃんの身体が全くよろめかなかったために戻りが早かったことで、俺は後ろに跳躍したままの姿勢で壁に押し当てられた。


「っつう…」

「…手前何してくれてんだ、あ?気持ちわりぃ事してくれんなよ」


ぐいと顎が持ち上げられる。壁に縫い付けられた両手は高く掲げられていて、なんていうか今、俺、ものすごいエロい体制。
シズちゃんはそんな事全く気にしていないんだろう。眉間にこれでもかというほどに皺を寄せている。一方すでに充分酸素を取り込んだ俺は先ほどとは違い、もはや武器の一つになりつつあるその口が自由になったことによってかなりの余裕が生まれた。死に近いのはさっきも今も同じかもしれないが、首を絞められた状態よりはいくらか遠い。生まれた余裕によってシズちゃんを挑発するという案が出され、俺はそれを実行することにした。


「あっは…意外だなぁ…」

「あぁ?」

「シズちゃんならチューでもうちょい固まってくれると思ったんだけどな…」

「ハッ、残念だったなぁ」

「うん、ホントに残念だよ。おかげで今こんな強姦されそうな状態だし?」


あははと自嘲の籠もった苦笑を続けていると、考え込むように黙っていたシズちゃんがふいに顔を近付けてきた。


「え、何」

「…それもいいかもなぁ?」


ニヤリと笑ったシズちゃんは、あろうことが俺のインナーを脱がせた、いや、破るように剥いだ。
春が近いとはいえ3月の冷たい空気に肌が触れ、思わず身震いする。


「ちょっと、何すんの」

「へぇ、ノミ蟲の癖にキレーな身体してるじゃねえか」

「何言ってんの、冗談はやめ…っ」

ぺろり、と腹の辺りを舐められ、身体が泡立つ。シズちゃんは思わず震えた声を出した俺を見て、軽く鼻で笑いながら俺の乳首に噛み付いた。声こそ必死に堪えたものの、執拗に舐めたり軽く甘噛みしたりするそれに身体が反応しない訳もなく、早くも限界が訪れた。


「や、だ…っ!」


どろどろとした嫌悪感だけが俺を包む。シズちゃんは切羽詰まった俺の声にようやく顔を上げる。


「やめてほしいか?じゃあちゃんと、そうお願いしてみろよ」


挑発するように、まるで思い通りだと言わんばかりに薄ら笑いを浮かべるシズちゃんは、単純で短絡的ないつもの彼の面影は全く無かった。俺に「やめてください」と言わせる為だけにこんな事をしたのか。


「なあ、どうなんだよノミ蟲よぉ」


キスするくらいの距離まで近づき、しつこく聞いてくるシズちゃんを横目で見ながらに、鼻で笑う。少し眉をひそめたシズちゃんに、俺は思い切り唾を吐きかけた。


「くそったれ」



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