※暴力あり








いつからだろうか。

シズちゃんは、やたらと俺の身体に跡を残したがった。
それは首筋だったり、腹だったり、腕だったり脚だったりと場所は様々なのだが、「跡」はだんだんとエスカレートしていった。


はじめは、キスマークだった。
付き合ってるならまあ無い事じゃないし、全く気にしなかった。
キスマークが、歯形になった。
流石に痛かったし、シズちゃんが歯形をつけるようになってから血もたくさん出た。もしかしたら彼にとっては甘噛みなのかも知れないが、割と痛かった。でも、今までにも歯形をつけた奴がいなかった訳じゃないし、あまり気にしなかった。
歯形が、深くなった。
肉が切れる。そう感じるようになった。それは野犬に食い千切られるみたいな感覚でただ、ただ痛かった。半日経っても血が止まらなかったので新羅に診せると、「一生傷だね」と言われた。その事をシズちゃんに話すとやたらと嬉しそうにしていた事だけが気に掛かった。

そして、歯形が、痣になった。
ここまでくるとただの暴力だった。パーじゃなく、グーで思い切り殴られ、何度も気絶した。普通の人の腕力なんか比べものにもならないシズちゃんの拳で殴られると、翌朝には紫色の痣ができていた。
俺だってバカじゃない。
こんな事するなんておかしい。いくら相手が好きでもそれくらいの判断力はある。俺はシズちゃんに「やめて」と何度も言ったけれど、彼はただ「我慢しろ」と言うだけだった。

なんで我慢しなきゃいけないんだろう。



我慢することにも疲れた俺は、シズちゃんになぜこんな事をするのか聞いてみた。するとシズちゃんはやたらと苦しそうな顔をして、「仕方ないんだ」と言った。
何が仕方ないの。そう聞こうとしたけれどシズちゃんが俺の脇腹を殴るほうが早くて、言葉にはならなかった。


ああ、違うよ、勘違いはしないでほしい。

シズちゃんは、優しい。
凄く優しいし、凄く俺を愛してくれている、と思う。

気絶して目が覚めるといつも俺を抱き締めてごめんな、と謝ってくれるし、俺が帰ってくる度に玄関まで迎えに来てくれる。出張というか、池袋から離れる仕事の時は毎時間必ず電話をくれるし、メールだってすぐに返してくれる。絵文字は苦手なはずなのに、最近はハートをつけてくれるようになった。セックスだって充分すぎるほど慣らしてくれるし、アフターケアだってちゃんとしてくれる。









「臨也」


ぬるぬるとした睡魔の誘惑から足を抜け出す。重い目蓋を上げると、シズちゃんの顔があった。
ああ、俺また気絶してたんだ。


「シ、ズちゃ…」

「良かった…!」


ぎゅう、と思い切り抱き締められる。身体のあちこちにある傷が痛む。思わず顔をしかめると、シズちゃんは泣きそうな顔をした。


「痛む、か?」


ほんとうは、すごく痛かった。

すごくすごく痛かった。怖かった。死んじゃうかと思った。
でもシズちゃんが好きだから。シズちゃんが好きだから、耐えられた。今だって耐えられる。俺は疲れた、と訴える表情筋を鞭で打って、無理矢理笑顔をつくった。


「大丈夫だよ、シズちゃん」





そう、彼は「跡」をつけだがる。
ただそれだけ。




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