「ん…ふ、ん」

鼻から抜けるような声をだしながらも、必死に声を噛み殺そうと唇を噛む臨也を見ながら、俺は奴のペニスをやわらかく握り、上下させる。



なぜ俺と臨也という、犬猿どころか野犬とゴリラ並に仲の悪いはずの二人がこんな事になっているかというと。
事の始まりは、今から小一時間前にまで遡る。



******




路地裏へ入っていく臨也を見た俺は、仕事中だとか腹が減っただとか信号が赤だとかそんなものは遥か彼方へぶっ飛ばして走りだした。
トムさんが俺の名前を呼ぶ…というより叫んだ気もしたが、後で謝るしかない。俺は臨也を見つけると、自分を制御できないのだ。
以前その事を新羅に言ったら、なにやら神妙な面持ちで「一種のトランス状態じゃないかな」と言った。



「トランス?」

「催眠状態…そうだね…ヒステリーみたいなものだよ。忘我って言ったほうが良いかな?…臨也という『因子』によって君のスイッチが入るんだ」

「あー…よくわかんねえ」

「まあとにかく、臨也によって君は狂わされているということさ」




その時は新羅の言っている意味があまりわからなかったが、こうやって臨也の姿を見つけると、新羅の言葉にも納得できる。

ぼんやりと新羅との会話を思い出しながら路地裏に続く角を曲がると、喉元にナイフが突き付けられた。


「毎度毎度…お出迎えご苦労様?」


ひゅっと風を切るような音を聞き、後ろに跳躍する。少しだけ皮膚を切ったそれは赤い血が滴った。


「臨也あああ!」


手近にあったパイプをひっぺがして臨也に放り投げるが、すんでの所で躱される。


「ほんっと…シズちゃんってばしつこいよ」

「うるせえ黙れ」


腹の立つにやけ顔で、ふう、とため息をつく臨也にマンホールの蓋を投げつける。臨也は「当たったら死んじゃうね」と言いながら横にぴょん、と跳んでそれを躱した。


「シズちゃんさあ…」

「その呼び方やめろ」

「んー…じゃあ…」


臨也は小首をちょこっと傾げ、頬っぺたに人差し指をあてて、いかにも考えています、というポーズをとった。しかし23歳の男がこれをやっても全くもって可愛くはない。どちらかといえば気持ち悪いのだが、臨也はそんな事を気にする素振りも見せず、閃いたと言わんばかりに、ぽん、と手をたたいた。


「しーちゃん」


その言葉が耳に吸い込まれると同時に、体中が沸騰するような感覚で満たされた。ふつふつと沸き上がるこの感情は、知らない。今まで感じた事がない。
様子がおかしかったのだろう俺を心配してか、それともからかおうとしてかー…おそらく後者であるだろうが、とにかく臨也が俺に近づいてくる。
やめろ、近づくな。
僅かに残る「俺」がそう警告をしようとしたが、時、すでに遅く。


「しーちゃん?」


微かに笑いも含んだその言葉を皆まで聞かず、臨也の身体が壁に押しつけられた。それは俺の腕によって押さえられているのに、どこか客観的に思える。
僅かに眉をひそめ痛みに耐える臨也の表情は加虐心をそそるものでー…

気が付けば、俺は臨也の両手を壁に縫い付けて、奴のベルトをカチャカチャと弄っていた。嫌だとか死ねだとか変態だとか叫ぶ臨也の口を俺の唇で塞いで。






******




「あっ、…やだっ、あ」


ひときわ大きな声を上げ、細い腰を弓なりに反らせたかと思えば、臨也のそれを扱いていた手に白濁した精液がふりかかる。
顔を上げると、臨也が顔を真っ赤にしながら、「死ね」と言った。




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