来神捏造








「シーズちゃん。歌わないのかな?」

「……あぁ?」

「ああそっか。シズちゃんはこういうのニガテなのかな?彼女もいなけりゃ友達も少なそうだもんねえ。もしかしてカラオケ、初めて?…あっごめん、初めてとか言ったら君は興奮しちゃうよね!童貞シズちゃん!」


にかー、と清々しいほどの笑顔を向ける臨也に向けて放ったマイクは、首を傾けた臨也のせいで壁に突き刺さる運命となった。マイクもどうせなら臨也の顔面に突き刺さりたかったよな。ごめんな。
臨也が「おっと」とは言いつつも全然驚いていないような感嘆をもらし、ニヤニヤ笑いながら壁に突き刺さったマイクを引っ込抜く。スピーカーからキーン、と鳴るハウリングが耳に痛い。
俺が二本目のマイクを振りかぶったあたりで、腰の辺りに新羅がしがみついた。


「まあまあ静雄、落ち着いて。今日は門田の誕生会なんだから。ね?」


そうだ。なぜ俺がこんなムカつくクソノミ蟲なんぞとカラオケに来ているかというと、今日は門田の誕生日で、臨也が言い出した「四人でカラオケでオール」案を門田が苦笑いしながら飲んだからだ。
門田はほんっとうに臨也に甘い。
欠席しようかとも思ったが、臨也が「シズちゃんが行かないなら俺も行かないよ。新羅も、ドタチンと二人なら行かないだろうね。ドタチン誕生日なのに。かわいそー」等と言い出した為、しかたなくついてきてやったのだ。


「誰から歌う?何歌う?俺入れていい?」

「あー、臨也の好きにしたらいいんじゃねえか」

「えっとね、えっとね、じゃあ…」


しかしいざ来てみれば、門田はマイクを一切握らず、臨也がきゃあきゃあ言いながら楽しそうに機械を操作するだけで、門田の誕生日祝いなどとは言っても、結局いつもの臨也のワガママの延長だった。
席を立ちたいのはやまやまだが、「門田の誕生日祝い」と銘だけは打っているせいで、まだ始まってもいないうちに退室するわけにもいかない。
仕方ない、飯だけ食ってとっとと帰るか。
そう心中で呟きつつメニューをめくると、軽快な音楽が流れて臨也がすくりと立った。


「折原臨也、17歳、歌いまーす!」


マイクを通したことにより臨也の声が音量を増す。イライラも増す。CMで使われているこの曲は数がやたらと多いアイドルグループの曲だ。なんというか、男が歌うとすごく気持ち悪い。臨也はそれをノリノリで歌って踊り、地獄のような四分間が過ぎた。俺はメニューのデザートのページまで到達したが、値段がやたら高いため、まだ決まらない。仕方なくもう一度最初のページに戻ると、歌い終わった臨也がわざわざ新羅の前を抜けて俺の隣に腰を下ろした。


「んだ、手前」

「メニュー。いっこしかないから」


覗き込むように見てくる臨也の頬はすこし上気していた。あれだけ熱唱していたのだから、当然だろう。先ほどまで臨也が歌っていたマイクは新羅が握り、「愛しのセルティの為に歌います」などとわけのわからないことを話していた。臨也はページをぱらぱらとめくりながら、うーんと唸り、「せっかく四人なんだから割り勘しよう」と言い出した。クソみたいな臨也の案ではあっても万年金欠の俺にとっては願ったり叶ったりな事で、結局二千円くらいのパーティーセットというものを選んだ。


「注文お願いしまーす、パーティーセットひとつ。はい、はーい」


内線をガチャンと切り、臨也が帰ってくる。ちょうど新羅が歌い終わったところだったが次の予約は誰もしていなかったために、テレビにCMが流れた。


「あーちょっと。もったいないよ。入れといてよー」


臨也はぷう、と頬を膨らませ足をじたばたさせながら門田に機械を差し出す。子供か。
門田は、はいはい、と言って苦笑いしながら選曲する。俺はすっかり氷の溶けたメロンソーダをストローで啜った。



「ねえ。ねえねえシズちゃん」


門田が熱唱(カラオケになるとキャラが変わる奴だったらしい。正直驚いた。)するのを横目で見ながら、臨也が俺の肩をつんつんとつつく。スピーカーから流れる重低音が邪魔して聞こえないため、臨也の口に耳を近付ける。


「さっきの俺の歌、聞いてた?」

「…なんとかっていうアイドルのやつだろ」

「歌手じゃなくて、俺の」

「は?」


俺は聞き取れなかったのか、それとも聞き取れているのか。どちらにせよ意味がわからず、俺の、とはどういう意味なのか、と臨也に聞こうとすると、臨也が先ほど曲を予約した機械を俺に突き出した。


「あ?」

「履歴」

「…履歴?」


ピッピッとタッチペンで「りれき」とかかれた画面を押す。


現れたゴシック体の文字に、臨也の言った意味がようやくわかった。俺の頬は歌ってもいないのに臨也より赤くなっていたのだろう、臨也にさんざんからかわれた為、マイクは一本使えなくなってしまった。





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