俺と臨也の関係は酷く不可解で、説明する事はおろか言葉にすらできない。
セフレ、という単語が一番近いんじゃないかと新羅か誰かが言ったが、前半部分は正しいかもしれないが後半部分が違う。フレンド、俺と臨也が?冗談でもやめてくれ、安全を保障できない。

俺と違って語彙力も豊富にあり、巧みに言葉を操る臨也でさえ、俺たちの関係を表す言葉が「見つからない」と言い、「とりあえずセックス・パートナーでいいんじゃない」と適当な造語を造って苦笑いをしていたが、残念だな、俺はお前のパートナーなんぞ、例え名前だけだろうとなんだろうと死んでもごめんだ。


言葉で表す事もできない、俺と臨也の関係。

例えば、街中で臨也に会ったとする。俺は奴を殺そうとするし、臨也も俺を殺そうとするだろう。
例えば、臨也からワンコールで電話がかかってきたとする。たいていしばらくすると俺の部屋のチャイムがなり、玄関のドアを開けると臨也が居る。招き入れた部屋ですることはセックスだけだ。
例えば、俺と臨也がセックスをするとする。性格が恐ろしく合わない分を埋めるかのように体の相性だけは良くて、ついつい夢中になる。
例えば、セックスをした次の日に臨也に街中で会ったとする。俺は奴を殺そうとするし、臨也も俺を殺そうとするだろう。

そんな関係。

家族ではないし、親戚でもない。セフレでもなければ、金づるでもない。友人でなく、ましてや恋人でもない。

そんな関係。






「シズちゃんさあ」

「あ?」

タバコをくゆらせながらベッドに腰掛ける俺と、一糸まとわない姿でベッドに転がる臨也。シーツに散った精液が数分前の事を彷彿とさせる。
今日は何かいい事でもあったのか臨也は終始ご機嫌で、中に出しても何も言わなかった。いつもは中に出すと、「出したら後処理がめんどくさいの知ってる?」などとぶつくさ文句を垂れるのだが、今日は何も言わず、ベッドでごろごろと転がるだけだった。
そんな上機嫌の臨也は顔だけこちらを見ながら続けた。


「前シズちゃんがさあ、俺たちの関係って何だろうなーって言ったじゃん」

「…ああ」

「あれ、俺なりに考えてみたんだよね」

「へえ」

「何、聞きたくない?」

「興味ねえ」

「うわ、聞いといてそれ?シズちゃんってさあ、もしかして自分であれだけ言ってた癖に、先に俺が答え見つけちゃったからー…」

「っせえな、興味ねえって」


ぺらぺらとまあよく動く口だ。黙ってたら無駄に整った顔のお陰で好印象であるだろうがこの口と歪んだ性格を知っている俺には印象もクソもない。
ため息と一緒にタバコの煙を吐くと、臨也がこちらに擦り寄ってきて、俺の肩にもたれた。冷たい素肌がぴたりと当たる。普段なら突き飛ばすだろうが、自分がさっきまで組み敷いていた奴を相手に、事後直ぐにそんな事ができるほど俺は外道じゃない。まあ明日になれば殺意は戻ってくるのだが。
肩にもたれた臨也は俺が口にくわえたタバコを見つめながら、そういえば、と思い出したように話しだした。


「シズちゃんって何吸ってんの?」

「…アメリカン…スピリット」

「、の?」

「ライトメンソール」

「メンソールなら俺でも吸えるかな」

「知らねえよ」

「一本ちょうだい」

「…ん」


いきなり何を言いだすのかと思えば、どうやらタバコが欲しかったらしい。臨也のこういう回りくどいところが嫌いだ。そう思いながらも催促をするように開かれた手のひらに、青緑の箱から一本落としてやる。羽織っているだけのシャツのポケットからライターを取り出して火までつけてやる大サービスだ。
高校生の時初めて吸ったときからずっと吸い続けているこのタバコは、値段は少し高いが、無添加でクセがなく吸いやすいので気に入っていた。そんな俺のお気に入りのタバコを臨也は小さな口にくわえて少し煙を吸ったかと思えばごほんごほんと喉を押さえて咳き込んだ。勿体ない。


「おい…」

「ごほ、…あは、やっぱ俺、タバコ苦手かも…」

「…じゃあ吸うな」


とんとんと背中を叩きながら臨也の手に挟まれたタバコをとって灰皿で潰す。勿体ない気もするが臨也が吸ったタバコなんぞ吸う気になれない。灰皿で潰されたまだ長いタバコは少しだけ煙を放つ。
こほこほと咳き込んでいた臨也だが、ようやく落ち着いたのか、ふう、と大きなため息をついた。さっきまで吸っていたタバコを灰皿の上でいじる。危ないぞと言うと心配してんの?と言われそうだから何も言わない。しばらくの沈黙のあと、臨也が再び口を開いた。


「…俺たちさあ」

「あ?」

「ああ、さっきの話の続きね…俺たちの…セックス…、ああ、パートナーは嫌なんだっけ、シズちゃんは。じゃあ…セックス…パーソン?…とにかく、きっと世界初なんだよ、こういう関係が。だから名前がまだ無いんだなあ、って思って」

「あー…」


口から吸ったニコチンが肺を満たすように、臨也の言葉は耳から入って全身にまわり、ああそうなのか、と納得する。俺たちの関係には「名前がまだない」。


「だからさ、名前をつけようよ」

そういって笑う臨也に、初めて好印象を持った事は墓まで持っていこうと思った。





(何が良い?)
(名前?)
(そうそう)
(あー…)
(パートナーはやなんでしょ?)
(…セックスは固定かよ)
(え、何、体の関係だけじゃなくてもいいの?)
(んなわけあるか死ねノミ蟲)
(えーシズちゃんのそれって照れ隠し?)





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