来神捏造







卒業も間近に控えた、ある晴れた日。
ゲーセンに行こう、と言いだしたのは臨也だった。


昼飯を四人で食っている時に思い出したように口に出したあいつは、名案だの天才だの言いながら、夏休み初日の子供みたいにはしゃいでいた。まあ臨也がきゃあきゃあ言いながらはしゃいでいたところで、ゲーセンなんぞに付き合う気は全く無かったのだが、臨也が根回ししたのであろう新羅と門田にだまされ、空も赤く染まる放課後、結果的に臨也の待つそこに無理矢理連れてこさせられた。


「ごめんね静雄!ちょっと臨也に頼み事があって…その代償にって」

「……すまん」


ぱちんと目の前で手を合わせて誤る新羅と、土下座しそうな勢いで頭を下げる門田。門田よ、そんなふうに謝るくらいなら引き受けるな、とも言いたい所だったが、こいつはどうも臨也に甘いふしがある。というか、人がよすぎるので臨也のワガママにも付き合ってやっている、被害者なのだ。
わかった、こいつらは悪くない、全ては臨也が悪いんだ。しゅんしゅんと沸騰していた怒りもようやく60度くらいまで収まったところで、タイミングを見計らったように臨也が後ろから俺の肩を掴んだ。


「あ゛?」

「シーズちゃん、そんな不貞腐れた顔しないで。ここは遊ぶところなんだから楽しくしようよ、ね?」


どうやらドンパチやる気はないらしく、俺の肩を放して鼻歌を歌いながら両替機に向かってスキップし、財布から万札を出して突っ込んでいた。
ちらりと見えた臨也の財布はずらりと札がつまっていた。万札を両替してるって事はあれ全部万札なのか。俺にとっては万札一枚が死活問題に繋がるというのに、こいつは一枚落としたところで気にも止めないんだろうな。畜生。


「よっしプリクラ撮ろうプリクラ」


ようやく両替の終わった臨也がそう言うが否や、女子高生の並ぶ機械の列の、化粧の濃い金髪の女がでかでかとプリントされた暖簾のようなものを見ながら物色する。
「あーこれは赤外線じゃないのか」等と暫くぶつぶつと呟きながらぐるぐると機械の間を回っていた臨也だが、一番列の長い、姫なんとか、とかいう機種の列に並んだ。姫等と書いている割に、サンプルのようなものには「小悪魔」やら「盛りギャル」等と書いてあり、やたら目を引き立たせるメイクをした同じような金髪の女がアヒルみたいな口をしてポーズを決めていた。姫の定義がよくわからない。わかりたくもないが。
臨也につられサンプルを眺める俺を引きずるようにして新羅と門田が臨也の後に続いて並ぶ。

プリクラ。聞いた事も見た事もあるが、男であり彼女もおらず、こういったものに金を浪費する友達もいない自分には無縁なものだと思っていた。渋々列に並ぶと、化粧の濃い香水のきつそうな女の集団が後ろに並び、逃げるに逃げられない状態になった。



「ちょっと、僕トイレ」

「ああ俺も」


列もどんどん進み前もいなくったというのに、新羅と門田が列からすっと抜ける。あの集団に突っ込むとはすごい勇者だ。ちょっと待てよと手を伸ばそうとすると臨也が俺のブレザーを掴んだ。


「あ?」

「ちょっと。どこ行くの、俺ピンプリとか恥ずかしすぎるじゃん」

「ピンプリ…?」

「ひとりプリクラ。ほら、もう撮っちゃおう」


がっしと掴まれたブレザーを引っ張って暖簾のなかへ連れ込まれる。どうやら順番が回って来たらしいが、逃げるにはこの香水臭そうな女子高生の群れを逆走しなければならないだろう。俺は仕方なく逃げる事は諦めた。
端っこの方に居ておいて、臨也の気が済んだら帰ろう。

臨也はあらかじめ用意してあったのだろう100円を二枚チャリンチャリンと機械に入れてこちらに手を伸ばす。


「にひゃくえん」

「…は?」

「後ろに迷惑だからちゃっちゃと撮っちゃおうよ」

「………あ?」

「…もー。後で返してね」


いまいち状況の掴めない俺を置いて、臨也は硬貨を投入し、明るさを設定したり背景を決めたりしている。


「はい、シズちゃんほら撮るよ、ピース」


パシャ、とフラッシュの光る音にようやく現状を把握する。俺は今臨也と二人でプリクラを撮っているんだ。なんつーださい状況。
理解したところで機械はとまらず、俺は仏頂面のまま、臨也ははじけるような笑顔で撮影がすすめられていく。


「…シズちゃん、笑おうよ」

「…は?」

「なんか寂しいんだけど、俺」

「何で俺が笑わないといけねえんだよ」


パシャ。

フラッシュが光り、機械から響く高い女の声がラスト一枚はパーフェクトなスマイルで、などと適当な事を注文する。


「…次、最後だって」

「……おう」

「ね、シズちゃん」




パシャ。







撮影も終わり、落書きコーナーに移動してね、という機械の音声を聞いて暖簾をくぐると新羅と門田がさっきも見たような謝罪の体勢でつっ立っていた。


「なあ、おまえら…また…臨也に、頼まれたのか…?」

「え、何?ちょっと周りうるさくて聞こえない」

「…あー、もういいわ」


暫く待つこと5分。落書きを終えたであろう臨也が携帯を右手に、プリントされたシートを左手にこちらに駆けてきた。


「おかえりい、ねえねえ見てよこのシズちゃんの仏頂面。うけるー」


シートを新羅と門田に渡しながら、俺に何かを催促するように手を広げる。ああ、と思い出して財布を出そうとすると、ちがうよ、と言って俺のブレザーのポケットからストラップをつまんで携帯を引っ張りだした。好き勝手に操作して、赤外線ポートを合わせたりしている。



「でもこれだけはよく撮れてるね。静雄が笑顔なんて、臨也一体何したの?」



臨也から投げ返された携帯を開くと、待ち受け画面が「最後の一枚」になっていた。

臨也のパーフェクトなスマイルと、俺の精一杯の笑顔。臨也によって落書きされたお互いの名前、それから「これからもよろしく」の文字。


俺は今ならあの適当な注文にもこたえられる気がする。





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