※暴力あり




俺は平和島静雄が好きではない。
どこが嫌いなんだ、と聞かれると悩む。悩んでしまう。嫌いな所がなくて悩んでいる訳ではない、多すぎてどれから言うべきか迷っているだけだ。それくらい、嫌いだ。
俺は平和島静雄を人間だと思っていない。デュラハンや罪歌のような、バケモノの一種だと思っている。人間じゃない、彼が嫌いだ。


とにもかくにも、俺は平和島静雄というバケモノが大嫌いなのだ。
おそらく、というか十中八九、相手も俺の事を嫌っている、かなり嫌っている。だからといって関係を改善しようとも思わず、顔を合わせると命懸けのケンカ、つまり殺し合いをもう数年続けてきた。
そして今、俺は長い平和島静雄との殺し合いの歴史の中で最大のピンチにあるといってもいい。





平和島静雄の様子がおかしくなったのは昨日のことだった。まあ、今までもおかしいといえばおかしいくらいのチカラを持っていた彼だが、今までとは明らかに違う行動をしたのだ。大振りばかりで避けるのは容易いはずの攻撃は囮で、俺がかわしている隙に間合いをつめた奴はいきなり俺を押し倒し、首筋に噛み付いて、ぷつり、じわ、と浮かんだ血を舐めた。俺はすごく気持ちが悪くなってみぞおちを思い切り蹴りあげて、命からがらその場から逃げ出したのだが、今日、奴はわざわざ新宿の俺のマンションにまであがりこんできて俺を押し倒した。そして、今に至る。



「ちょっと…どいて」

「どかねえ」

「ほんと、なんなの」

「黙れ」


彼ー俺は嫌がらせのつもりで、シズちゃんと呼んでいる、は短い返事をして、俺の首筋を凝視する。ああ嫌な予感しかしない。シズちゃんは昨日の傷痕をぺろり、と舐めた。


「ひ…ッ」


思わず出た声にびっくりする。なんだ、今の声。口を塞ごうと手を動かそうにも、両手はシズちゃんによって頭の上に纏められているため、逃れるために必死にかぶりを振る。


「んだよ、動くな」

「っに、してんの…っ」


ぬらついた、それでいてざらついた舌が俺の首筋を這う。唾液にまみれたそれはひどく気持ちが悪かった。


「…やめ、て…ッ」

「やめねえ」

「ちょっ…や、あ、」


首筋を唾液にまみれさせたそれは、ぺろり、と耳に侵入し、あまりの刺激に思わず腰が跳ねる。悔しいけれど、かなり感じてしまった。


「感じてんのかよ、俺で」

「ば、やあッ、やッ、う、あ」

「気持ちわりい声」


気持ち悪いのはどっちだ、とにらみつけてやりたかったがそんな余裕もなく俺はただ快感に耐えた。
当たり前だが、男に抱かれたことなんて無い。女を抱いた事は何度かあるが、女が鼻から抜けたような声を出す度に演技臭い、と冷め、萎えそうになっていたものだが、いざ自分がこうやってされると、仕方のないものなんだと理解した。例え相手が殺したい程大嫌いな奴でも性感帯をくすぐるように舐められてはもうどうしようもないのだ。


「ふぅ、シ、ちゃん」

「何だ」

「し、しねッ…しね、しねッ」


死ね、と今出せるだけの強気と嫌味をもって言ったはずの言葉にシズちゃんは一瞬固まった後、顔をほころばせた。


「手前がそうやって、俺の下で無駄に抵抗すんの、すげえいい」


一体何なんだ。

シズちゃんは口角を上げてにやりと笑い、俺のインナーを捲り上げた。びり、と嫌な音がしたので捲り上げたというより破った、と言うほうが正しいかもしれない。とにかく俺の上半身は外気に触れた。


「…やだ、やめてってば、ねえ、シズちゃん」


シズちゃんにはもう俺の言葉など届いていないのだろう。女と違って膨らみもしない俺の乳首にかぷりと噛み付いた。


「い…ッ」


まるで噛みちぎらんとばかりのその歯のたて方に抵抗してみるもののびくともせず、俺はせめて声を出さないように努めることにした。シズちゃんはそんな俺を見てムッとした顔をし、俺のズボンとトランクスを引きずりおろしてペニスをわしづかみにする。


「あ、」


思わず出た上ずった声に嫌悪感やらなんやらもう訳が分からなくなって、涙がぽろぽろと零れたが、それをシズちゃんがすぐに舐めとる。気持ち悪くてまた涙が溢れた。


「や、やだ、もう…やだ…」

「やじゃねえよなあ」

「…あっ、や、やあっ、あ」


シズちゃんの大きな手が俺のペニスを扱く。強制的に気持ち良くさせられていることがひどく気持ち悪くて、身体だけはどんどん熱くなるのにすごく寒く感じて、もう現実を見たくなくて目を閉じた。
視界が闇につつまれる、と感じた次の瞬間、異物感が襲う。痛みに顔をしかめ目を開けると、シズちゃんの指がありえないところに刺さっていた。
男同士のセックスにどこを使うかくらいの知識はある。だが、まさか。
信じたくないが、シズちゃんの指は奥へと侵入した。


「…や、やだ、やだっ、やだあ、」

「うるせえ」


シズちゃんの指が俺のケツの穴に埋まって、いや、ねじ込まれていく。たいして慣らしもせず、ましてや女みたいに濡れることもないので差し込まれたそれによって酷い痛みが襲った。


「あ、いっ、は…ッ」

「んだ、めんどくせえ」


ぐりぐりと好き勝手に引っ掻き回した後、ジー、と嫌な音が響いてシズちゃんの無駄にご立派なそれが押しあてられた。


「挿れるぞ、ノミ蟲」

「え、やだ、むり、むり、むりだって、ば、やだあ、あああッ」


みちみちと嫌な音がする。余りの痛みに意識がぶっ飛びそうになったが、断続的に続く痛みに失神さえ許されず、声も出ず、ただひたすらに涙だけが流れた。
辛いのは、というか狭いのは向こうも同じようで、力を抜けなどと無茶な要求をしてきた気もするがもう頭の中が真っ白で訳が分からない。しばらくして、裂けた血のお陰で滑りが良くなったのかはしらないがシズちゃんの動きがだんだん激しくなった。俺も痛み以外の認めたくない何かを感じるようになり、悔しくて悔しくて舌を噛み切ろうかとも思ったが快感が邪魔をしてうまくいかない。


「あ、あっ、あ」

「えらく感じてんじゃねえか、ノミ蟲よお」


早く終わればいい。ただそれだけを願って目を閉じると、溜まっていた涙が頬を伝った。すかさずそれを舐めとるシズちゃんの息がだんだん荒くなって、限界まで引き抜いたり奥まで突き刺したりを数回繰り返し、俺の中に精液を流し込む。嫌な感覚だ。せめて、せめてコンドームくらいは付けてほしかった。どくんどくんと波打つそれを乱暴に引っ込抜いた衝撃でようやく絶頂に達した俺を蔑むような目で見た彼は最後に何を思ったか俺に口付けた。

無理矢理身体を開かされた事よりも何よりも最後のキスが許せなかった。彼は確かに俺の大嫌いな平和島静雄だった。



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