よくよく考えてみれば、今日はあの日からちょうど、きっかり1ヶ月が経っていた。



あのわけのわからないチョコを俺に食わせたり自分で食ったりした後大人しく帰っていった臨也と、あれから何度か顔を合わせる事があったが、お互い特に何が変わるという訳でもなく二、三のたいして意味をなさない会話の後ナイフがきらめいたり標識が舞ったりと、まあいつも通りの日々を過ごしていた。
今日も、仕事がすこし長引いたくらいで特筆すべき事もない一日だった。ようやく仕事も終わり家に帰ると臨也が俺のベッドでグースカ寝てやがった事以外は。


「…んで手前がここにいんだ臨也あああ!」

「んー、あ、シズちゃん。帰ってくんのおそいよ」

「そうか、殺す」

「あー日本語通じない」

「よし、殺す」


とりあえず台所に置いてあったコップを握り潰し、臨也に向かって投げる。臨也は素早く起き上がって、今まで頭を置いていた枕を器用にひっつかみ眼前にスライドさせてコップだったガラスの塊を受け止め、「寝起きなのに容赦ないね」と言いながら、ぽすん、とベッドに落ちたコップを手に取り、なにやらじいと見つめる。


「……シズちゃん、今日何の日か知ってる?」

「知らねぇよ」

「…はあ、まあシズちゃんに期待とかしてないけど…」


わざとらしくため息をついて、俺が握り潰したコップをコートのポケットに入れる。


「あ、んだ」

「これ、ちょうだい」

「あぁ?なんだってそんなもん」

「いいから。どうせ捨てるんでしょ」

「まあ捨てるけど」

「じゃあいいじゃん」


どことなく淋しそうに笑う臨也に、覇気というか闘気というか、臨也をぶちのめす、という気が吸い取られるように無くなっていった。


「別に…いいけど…何でだよ」

「んー、秘密」

「んだよ気色わりい」


俺はでかいため息をついて蝶ネクタイを外し、ベストを脱ぐ。臨也はベッドで何が楽しいのかニヤニヤしながらぽんぽんと跳ねている。


「埃立つからやめろ」

「掃除しないシズちゃんが悪いー」

「飛び跳ねてる手前が悪いだろ確実に」

「あっは、…まあいいや俺帰るね」

ぴょん、と勢いをつけてベッドから飛び下り、玄関に向かって歩く。何しに来たんだよ、こいつは。そう心中でごちて、タバコを箱から取り出して口にくわえる。今日開封したばかりなのに、箱の中はあと一本を残すだけなった。ああ、最近タバコの本数増えてるな。気を付けないと。


「じゃね、シズちゃん」


目線を上げるといつのまにか玄関までたどり着いていた臨也がバイバイと手を振って臨也の姿が消える代わりに扉がパタンと虚しい音を立てて閉まる。
あんなになったコップを、大事そうにポケットに突っ込んで持って帰るなんて。こいつって時々マジでわけわかんねえ。



よくよく考えてみれば、今日はあの日からちょうど、きっかり1ヶ月が経っていた。











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