レンタルビデオ店。の、一角。
紺色に黄色い字で「R18」と、でかでかと掲げられた暖簾で区切られたそのスペースにはAV…アダルトビデオが並んでいた。
ピンクやら紫やらの背表紙が並ぶその棚を物色する2人の男。そのスペースには他に誰も居なかったものの、他の人から見たら男2人でAV物色とかどういう風に映るのかなあ、普通に友達同士に見えるのかな、と心中で呟きながら目についたアダルトビデオを棚から出したり戻したりの動作を繰り返す。


「あ、シズちゃんこれなんかどお。ナースだよナース。しかも監禁」

「…あー…もうなんでもいいから早く出てえ」

「なに?早く出したいの」

「ちげえよ!早くこの空間から脱出してえんだよ!」


真っ赤になりながら叫ぶように怒鳴るシズちゃん。いや、わかってたよ?君にはこういう所は無理であろう事くらい。わかってたけどさ…
俺がシズちゃんをこんな所に引っ張って来たのには理由があった。
そう、セックスの、マンネリ化防止。

シズちゃんとのセックスには、まあ、おおむね満足している。少したどたどしいというかおぼつかないけれど、獣みたいにお互いを求めるセックスは嫌いじゃなかった。シズちゃんはアフターケアもしっかりしてくれるし、総合評価には及第点をあげてもいい。ただ、完璧にパターン化しているという一点を除いて。

シズちゃんのセックスはまず、二パターンに分かれる。
一つ目は、キスというか口淫から始まり乳首をいじくって、その後たまに耳を舐められて、それから俺のを抜いて出た精液をローション代わりにして慣らし、挿入、出すというもの。俺はこれを密かにAパターンと呼んでいる。
二つ目のBパターンは、俺にフェラさせてから俺のを抜いて、Aパターンと同じように慣らして俺がシズちゃんの上に乗る、騎乗位パターンだ。
基本的に、A三回につきB一回くらいの頻度で、Aパターンの内訳は正常位五回につきバック一回といったところかな。
…と、まあ俺なりにシズちゃんとのセックスを分析した結果、こんな感じにパターン化されていて、それがわかった途端に自分で言うのも何だけど経験豊富な俺は、なんだか毎回のセックスがまるで流れ作業のように物足りなく感じるようになってしまったのである。そうしてこれではいけない、シズちゃんに少しばかりお勉強してもらわないと、と半ば引きずるようにして連れてきたのがこのレンタルビデオ店のAVコーナーなのだが、当のシズちゃんは興味ゼロ、羞恥心100という情けないざまで、仕方なく俺が興味もない女のきわどいポーズが印刷されたパッケージをあれこれ物色している。


「じゃあ強姦ものとか」

「…おい、もういいだろ。俺は出て待っといてやるから」

「えーやだやだ、一緒にいてよー」

「じゃあ早く決めろよ」

「うーん…じゃあこれとこれにしようかな…」


とりあえず割と人気のありそうな、貸出中の多い2つのビデオを手に取り、シズちゃんに渡す。シズちゃんは素直に受け取ったが、ぼーっと俺を見つめたまま固まって動かない。


「…シズちゃん?」

「…あ?…え、なに、これ俺が借りるのか…!?」

「うん。だって俺ここの会員じゃないもん」

「…マジ?」

「マジ」


慌てふためくシズちゃんを尻目に俺が暖簾をくぐってレジの方に歩くと、シズちゃんは慌てたままで俺の後に続き、レジにつくとメガネでボサボサの頭をした店員に突き出すようにしてビデオを差し出し、しばらくして貸出の手続きが終わるとそのまま俺に持つように促した。


「別に持つけどさ…持つけど、男として、どーなの、それ」

「うっせーな、俺はこういうもん嫌いなんだよ」

「あーはいはい、知ってる知ってる。でもこれシズちゃんが見る用に借りたんだからね」


俺がため息をつきながら言うと、シズちゃんはまるでギュン、と音がするような速度で振り返った。


「…誰が見るって?」

「シズちゃん」

「…何で」


ここでストレートに「あなたのセックスはAパターンとBパターンに分かれており……よって、マンネリ化を防止するためにあなたにお勉強していただきたいからです」等と言うとシズちゃんはきっと立ち直れないくらい傷つくだろうから、とりあえず「セックスを勉強してほしいから」と言う所だけ抜粋して相手に伝えると、この上なく渋い顔をされた。


「…あー…俺そんな下手か」

「…別に下手じゃないよ?シズちゃんとのエッチ、きもちいいよ」

「いや、うん…あー……や、でも、やっぱコレ見るのは無理だわ」


しばらく悩むように眉間にしわを寄せた後、AVの入った袋を俺に渡す。せっかく悩んで決めたのに、と少し不機嫌に「なんで」と聞くと、シズちゃんは頭を掻きながら恥ずかしそうに、俺の耳元で囁いた。




「お前以外の裸とか見たくねえ、から」







そのAVは見ることはなかったけど、まあ、結果的に言うと、マンネリ化は防止されました。





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