「え、つけんの?」

「だって、つけるもんなんだろ」

「やだあ。つけないよ。孕まないもん」


ビールとタバコ。
シズちゃんが買いたい、と言ったので、シズちゃんの家の近くのコンビニに来ていた。コンビニとしては珍しく、すこし表通りから外れたとこにあり、客は俺たちだけだった。シズちゃんいわく、二つあるレジの、入り口から遠い方に『レジ休止中』のプレートが置かれていないのを見たことがないらしい。
そんな事を思いながらレジの方をちらりと見やると、たしかに赤いゴシック体の字で『レジ休止中』と書かれた白いプレートが置いてあった。
前言ってた通りだね。
そう、後ろに立っていたはずのシズちゃんに話し掛けたつもりだったが、そこにシズちゃんの姿はなかった。狭い店内を見渡すと、雑誌コーナーの前あたりに金髪の頭が揺れていた。
ワックスと制汗剤に挟まれた小さなスペース。そこに並べられたコンドームの小さな箱。シズちゃんはその中から紫色の小さな箱を手にとって眺めていた。

そこて、冒頭の会話に戻るわけだ。



「シズちゃんだって、生のがいいでしょ?」

「いや、俺は別に…」

「いいじゃん。どうせめんどくさいのは俺だし、俺が生でいいって言ってんだから」

「いや…、やっぱり買うわ」

「えー、いらないのに」


ビール三本と一緒にコンドームを緑色のカゴに入れて、シズちゃんとレジに向かうと、いかにもアルバイトの女子大生、といったふうなメガネの女が少し頬を染め目を泳がせながらレジを打った。
他に客も居ないし、きっと俺たちの会話を聞いていたのだろう。
当然にぶちんのシズちゃんはそんな事に気付きもせず、カウンターの壁ぎわにあるタバコを指差しながら、「あとそれも。いや、それじゃなくてそこの赤いの。カートンで」と低い声で注文していた。コンビニでカートン買いができるなんて知らなかった。いや、本当はできないのかもしれない。よほどのお得意様なのか。


「お会計4460円です」

会計を聞きながらシズちゃんの手がケツのポケットを探るが、しばらくごそごそとやって、出てきた手には何も握られていなかった。

「…やべえ、財布忘れた。臨也、金」

ひらひらと先ほどポケットを探っていた手を振る。レジの女は肉まんやピザまんを見ていた俺に向き直って、お会計4460円です、と細い声で繰り返した。

「えー、…じゃあこれいらないです。代わりにピザまんひとつ」

「え、あ、はい」

コンドームの箱を手で除けて、ピザまんを指差す。レジの女は少し困ったふうに返事をして、手をお絞りで拭いてピザまんを取り出すためのトングを握った。

「あ?いや、いります」

ぼーっとしていたシズちゃんが、除けられたコンドームに気付き、ビールの横に戻す。レジの女はトングでピザまんを掴んで紙の袋に入れながら横目で見て、はい、と、これまた消え入りそうな声で返事をした。


「いりません。金払うの俺じゃん。俺、これいらないし」

「タバコだって吸わねーだろが」

「え、いいの?じゃあタバコもいりません。代わりに肉まん追加」


はい、はい、といちいち細い声で相づちをうつこの女がかわいそうだとでも思ったのか、それとも俺との口論に疲れたのかー…おそらく後者であるだろうが、シズちゃんは地の底から響くような声で「財布、とってくるんで待っててください」と女に告げて、軽快なチャイムを鳴らしてコンビニを出ていった。


「お会計、お願いします」

雑誌コーナーの大きな窓からシズちゃんの姿が完璧に見えなくなってから、俺はレジに向き直って、にこりとほほ笑みながら女に会計を促した。

「あ、えっと…ピザまんと肉まんが一つずつで、こちらはお買い上げなさらない…でよろしかったですか」

「いや、全部買います。あと、これ、同じのもういっこ追加。ああ、カートンで。ピザまんと肉まんももう一個ずつ追加で、合計8000円ですよね」

女はきょとん、とした顔をし、それからあわてて後ろの棚からタバコの箱を取り出して、几帳面に先ほどのお絞りでもう一度手を拭き、肉まんとピザまんを紙の袋に入れて、もう一度はじめからレジを打ち直した。最終的に8000の文字が出るだろう小さな画面を見ずに、一万円を渡しながら、「レシートはいりません」、と言うとさっきと変わらないか細い声ではい、と返事が返ってきた。
千円札二枚を受け取って、つい先ほども聞いた軽快なチャイムを響かせてコンビニを出ると、ちょうど黒い財布を手に持ってすこし息を乱したシズちゃんが現れた。


「手前、勝手に何やってんだ」

「わ、早いね」

「アホか。手前がめんどいことさせっからだろ」

「財布忘れたのシズちゃんじゃん」

「手前が払えば済む話だったろうが」


シズちゃんはそれだけまくしたて俺の脇を擦り抜けると、自動ドアがもう聞き慣れてしまったチャイムを鳴らして中へ招き入れる。レジの女にタバコを指差すと女がこちらをちらりと見て話しだし、二、三言葉を交わした後、シズちゃんはずんずん、というまさにそんな効果音が似合いそうな歩き方をしてこちらに歩いてきた。


「…おかえり」

「二度手間かけさせやがって、何がしたかったんだよ、てめーは」

軽くこづいたー…つもりなのだろうが結構ダメージのあるそれを脳天にくらって、すこしふらつくと、荷物が重いと勘違いしたのかビールの入っているほうの袋を持ってくれる。
俺の持っていた袋は重たいビールの袋と、ピザまんと肉まんの袋、コンドームとタバコの入った袋の3つで、俺としては重たいビールの袋よりむしろコンドームとタバコの袋のほうを持ってほしかったのだが、腕が軽くなったのは確かなので黙っておくことにしよう。



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