はじめは遊びだった。
ただの軽い気持ちだった。
シズちゃんを振り回して振り回して。お金、気持、その他、諸々。さんざん絞り尽くしたらぽいっと紙くずのように捨ててやるつもりだったのに、結局いまだに捨てられていない。もう捨ててもいい、飽きてもいいくらいの期間が過ぎたのに。


「シズちゃん、ん、んぁ、あっ」

「すげえ、今、締まった」

「報、告とか。いらなっん、う」


何の得があるのだろう。何の益があるのだろう。無益だ、不毛だ。何にもならない、こんな行為なんて今すぐにやめてしまえばいい。むしろ、始めなければよかった。そう思うのに。
俺の足は定期的に池袋へ向かう。
ああ、思春期なのか、発情期なのか。名前はわからないけど、早く早く終われば良いのに。一人の人間に与えられた時間はせいぜい、たった24時間、かける、365日、かける、はてな、だ。来世は何になるか分からない。セミなんかになってみろ。自由になってからは、よくて24時間、かける、7日。まあ、俺は輪廻とかそういうのは微塵も信じていないのだけれど。
そう、時間は限られている。こんな行為、無駄以外のなにものでもないのに。


「なあ、臨也」

「な、に」

「…すげぇ、好き」


足を開かせて、ペニスを迎えさせて。排泄するための器官にむりやりソレをねじ込んで、好き勝手揺さ振って。極め付けに今の台詞。
ああ、反吐が出そう。
何、その、愛をささやく唇。ああ、要らない要らない。
思い出してみればいい。シズちゃんは俺の事が嫌いだったんでしょう、殺したかったんでしょう、一体全体、その感情はどこに忘れてきてしまったの。今ならきっとたやすく俺を殺せるよ。首を絞める?それはいいかもね。首を絞めれば女の膣は締まる、って聞いたことがある。男の場合は知らないけど。それに腹上死なんて俺にとって最高級の屈辱だ。
大体、好きだなんてそんなことを言ったって何にもならない。無駄だ。ナンセンスだ。
確かにそう思うのに、


「うん、おれ、も」


…、
何でだろう。

見返りの無い愛なんて、陳腐なもの。俺たちの間には存在しているはずがないのに、こうやって気持ちを確認するように『好き』と言葉にして、それに応えてしまう。
シズちゃんは、馬鹿だ。それに加えて俺も馬鹿だ。シズちゃんよりもっともっと馬鹿だ。理解してるのに、知らないふりをしてこんなふうに、シズちゃんを求める。馬鹿だ。ひどくあたまがわるい。



「あ、ああっ、そこ、やだ…っ」

「やじゃねぇだろ」

「や、や…っ、そこばっか、もう…」

「良いんなら、素直に言えって」

「う、…うー、き、きもちい…、よ」


ああ、徒為だ、無意義だ、無意味だ、論外だ、くだらない…
今でも遅くない、今からでもやめてしまえばいい。やめたい。やめたいのに。
シズちゃんはまるで麻薬みたいだ。


「シズちゃん、あ、あっ…なか、」

「臨也、いざ、や」

「なか、中に、出して…ね」

「おう、」


中に出したって何にもならないのに。
子供ができるわけでも、何か実がなるわけでもないのに。何で俺は中出しを望むんだろう。処理が面倒なだけなのに。


「あっ、あっ、シズちゃん、も、もう…っ」

「わかっ、てる」

「あっ、やぁ、あっ…はう、ん」


どくん、どくん。
注ぎ込まれる意味の無い命の種。
今日も、遠回しにたくさんのたくさんの命を奪った。
だって、例えばこれが他の女の膣に注ぎ込まれていたら。
うまく計算すれば子供ができるでしょう?運が良ければ双子だってできるかもしれない。
でも俺の腸に注ぎ込まれたら、後で洗い流すだけの実のならない種だ。
ほら、殺人だ。俺たちは不毛な行為を続けながら同時にたくさんの殺人をしている。不毛どころかマイナスだ。実にくだらない。

シズちゃんの長い指が俺の額にかかった髪を優しく払いのけて、唇で俺の額に触れる。
こんな優しさ知りたくなかった。会ったら殺し合う、そういう関係のままでよかったのに。
静かに目を伏せるとシズちゃんは心配そうに覗き込む。



「…シズ、ちゃん?」

「…なあ、最近ヤってるとき、何考えてるんだ」


ああ。
気付いてたんだね。気付かれないようにしてきたのに。そういう、優しいところ、すごく好きで大嫌い。
もし。もしここで素直に、『あなたとセックスしてるあいだじゅう、こんな行為なんて無益だなと考えていました』等と言ったらどうなるだろうか。今後シズちゃんと一切セックスなんてしなくなるだろう。それどころか純粋なこの男は騙されたと殴りかかるかもしれない。クソみたいな恋愛ごっこに哀しみ、うちひしがれるかもしれない。金輪際会うこともなくなるだろう。きっと、それがベストの選択だろう、そうなのかもしれないけれど。


俺は少し考える。




うん、それは少し、淋しいね。




「…別に、なにも」



これから先も決して実がなることはないのだろうけれど、そこには確かに小さな花が咲いていたから。



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