捏造来神










折原臨也。第一印象は、まあ、顔の整った奴だなあと思った。新羅から紹介された時も、少しいらっとする喋り方をする奴、としか思っていなかった。臨也は大人びた雰囲気をもっていて、なんとなくそれを鼻に掛けたふうだったから、苦手と言うわけではないけれど嫌な奴だなあと思った。

「シーズちゃん、ご飯食べいこー」

臨也は、人懐こかった。いや、正確には人懐こいわけではないかもしれない。だが、皆がしゃべりかけようとしない俺に対して毎日毎時限懲りもせず話し掛けてくる。それが気付けば日常になっていた。臨也と、新羅と、俺。この三人でいつもつるんでいた。新羅は変り者として知られていたし、臨也は何て言うか、話し掛けずらい。…皆は臨也に話し掛けたそうにしていたが、高嶺の花というか、とにかく臨也も新羅も俺もそれぞれ一人だったのだ。一人があつまって三人になった。それが俺たちだった。

「…新羅は?」
「今日休み。彼女とケンカしたんだってさぁー」

臨也と二人。初めての状況になぜか少し緊張しつつ、屋上へ続く階段をゆっくりと上がる。屋上は通常鍵がかかっていて生徒は出入りできないのだが、臨也が「天気の良い日は空を見ながらご飯を食べたいなあ」と言いだしたかと思えば、その次の日には鍵をどこからか手に入れていた。この日も購買で買ったパンを片手にぶらさげ、ポケットをまさぐった臨也の手には鍵が握られていた。

「わー、いい天気ー。THE・夏って感じだねぇ」

日陰に移動してパンの袋を開ける。真夏の空はどこまでも青く、臨也の表現したとおりのいい天気だった。

「シズちゃん、何パン買ったの?」
「んー、焼きそばと、ウインナーのやつと、あと生クリームの」

袋を覗き込んだとたんに臨也の目がらんらんと輝く。

「焼きそば!焼きそば!焼きそば食べたいっ」
「あぁ?何でだよ」
「俺買いに行ったとき無かったー。シズちゃん、サンドイッチとひとくち交換!」

そう言って、かじっていた卵サンドを差し出す。俺が思わず受け取ると勝手に焼きそばパンの袋を開け、がばっと開いた大きな口でおもいっきりかじる。かじるというよりかぶりついている。臨也がこんなに口開けたとこ見たことねぇ。しばらく呆然としていたが、明らかにひとくちではないサイズを失った焼きそばパンを臨也から引き離す。

「ちょ、臨也手前ェひとくちでか過ぎだろ!」
「ふふふー」

口いっぱいに焼きそばパンをほおばった臨也が幸せそうに笑う。なんだが臨也がガキみたいで笑ってしまいそうになる口元を隠し、卵サンドにかぶりついた。


「…卵サンド全部食ってやる」
「…っちょっとシズちゃん!あー!卵ー!」

俺の『ひとくち』は臨也の『ひとくち』よりでかかった。卵サンドはもはや四分の一くらいしか残っておらず、臨也は残された卵サンドを俺からひったくって、ぶつぶつとつぶやいた。

「…俺、卵ラブなのに…」
「焼きそば食っただろ」
「…シズちゃんのほうがひとくちでかい」
「あんま変わんねーよ」
「変わる!」
「お前が先に食ったんだろ!」

だんだんと大きくなる声。階下の生徒たちが野次馬のごとく窓際にあつまり、ガラリと窓を開けて観戦している。

「…買ってきて」
「ハァ?」
「卵サンド。買ってきて」
「何で俺が」
「うるさいっ」

臨也はどこから出したのか、ナイフを突き付ける。身を退いたが避け切れず、カッターの袖が少し切れる。なんつー物騒なやつだ。まあ、かくいう俺も理不尽な臨也に堪忍袋もはち切れそうになりつつある。いや、はち切れた。屋上の柵を引き剥がし、臨也に投げつける。臨也はひらりと躱したが階下から歓声があがる。うっせぇ、見てんじゃねぇと叫ぶと皆一斉に窓をしめた。
柵を投げつけたのと大声を出したので少し落ち着いた俺はゆっくり深呼吸し、未だナイフを握ったままの臨也に向き直る。

「…じゃあ焼きそば買ってこい」
「…焼きそばもうないもん」

いつもならこの辺りで新羅が「ぼくの卵焼き食べるかい?これはなんとセルティが作ってくれた…」と制止もとい彼女自慢を始めなんだかんだで事無きを得るのだが、残念ながら新羅はおらず、俺と臨也の間にはぬめりきった均衡だけが残った。
焼きそば焼きそば言ってたときは可愛かったのに。あ、いや、可愛いってべつにそういう意味じゃなくて。


結局、涙目で睨みつつナイフを突き付けてくる臨也に根負けした俺は購買で卵サンドを買う事になった。

もうこいつとひとくち交換はしないと、屋上で歓喜の声を上げる臨也を睨みながら初夏の空に誓った。





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