これは 臨也だ


わかっている。そんなことは、わかっているんだ。
目の前で自分の尻に指を突っ込み、頬を上気させながらも必死に孔を広げようとしている、「これは臨也」そんなことはわかっている。

俺はおかしくなってしまった。
臨也が嫌いだった。それこそ、出会った瞬間から嫌いになった。空々しい微笑みも、歪んだ薄い唇も、気持ち悪いくらいに白い肌も、獰猛な赤い視線も。何もかもが俺を不快にさせた。よく回る舌も、細すぎる身体も、臨也を構成する全てが俺を不快にさせていた、はずなのに。
どうして、こんなことになってる。
自問自答を繰り返す。反芻する声に応えてやりたいが、答えがまだ見つからない。
臨也じゃなくてもいいのかもしれない、と思ったりもした。これはただの性欲処理で、相手は誰でもいいのだと。しかし臨也以外を抱く気にはなれないと気付くのに時間はかからなかった。

グチャグチャと絡み付いてくる考えを吹き飛ばすように臨也を穿っても、臨也の甘ったるい声が思考を停止させてくれない。耳から臨也に侵されていく。臨也を抱く理由がわからないのに臨也を抱いて、臨也にどんどん侵食されていく。

その手で 口を塞いでしまえばいい

気管を圧迫させれば声は出ない。
そうだ、臨也なんか死ねばいい。
あの生白い首をぎゅうと絞めあげれば、たちまち臨也は声を失うだろう。心を痛める必要はない。だって、「これは臨也」なのだから。

「うっせえっつってんだろ」

俺は臨也の呼吸を奪った。
この両手ではなく、自らの唇で奪った。臨也が驚いて目を見開いたが、俺もかなり驚いている。首を締めるはずの両手は臨也を掻き抱いていた。眼前にはいつかに感じた獰猛さの欠けらもない、丸い瞳。
だがこいつはどこまでも臨也だ。
瞳を隠すようにきつく目を瞑って、ぼろぼろと涙を流すこいつは臨也だ。俺の大嫌いな、折原臨也だ。
ようやくこみあげてきた嫌悪感に従って唇を離すと、臨也は水の境目であぎとう魚のように口を開いては咳き込んだ。
元からたいして慣らしていない上、呼吸が制限されてキュウキュウと絞り上げるように締め付ける後孔に責め立てられて限界が近い。「出すぞ」と言うが早いか、俺は臨也の中に精を放った。
俺の出したものが臨也に吸収されていく。ベクトルは確かにそっちに向いているはずなのに、臨也が俺を喰っている気さえした。あらかたを出し尽くしてしまうと、深々と突き刺さったそれを勢いよく抜く。面白いくらいにビクンビクンと跳ねる内壁が名残惜しくない訳ではないが、しかしこれ以上臨也に俺を侵食させるわけにもいかなかった。
身支度を整える俺の背中に、臨也が何か話し掛けてくる。甘ったるく少し擦れた、躊躇いがちに手を伸ばすような声は聞こえない振りをして、俺は臨也から逃げるように部屋を出た。
パタンとつれない音をたてて俺と臨也を隔てた薄い扉の向こうから押し殺したような嗚咽が聞こえてくる。はやく離れれてしまえば聞かずにいられたのに、まだ、俺は扉の前から動けずにいる。
タバコの煙が染みて、痛む心に言う。「あれは臨也だ」。大丈夫、俺はまだ、アイツを嫌いな俺でいられる。










認識困難


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