中学生正臣×臨也→?




「正臣くぅん…」

 鼻にかけた甘ったるい声が俺の鼓膜を揺らす。あたたかい息が首をなぜていく。黒い髪をしっとりと濡らして俺の首にしがみつく臨也さんの涙の滲む真っ赤な瞳をぺろりと舐めると、臨也さんはくすぐったそうに笑いながら「やだあ」と言った。伏せたまつ毛がふるふると震えるのがすごく綺麗だ。
 「臨也さん」俺が声をかけると彼は顔を上げ、俺の目を見て首をかしげてくれる。でも、それでも、いつだって臨也さんは俺を見ていない。一度だって、ちゃんと見たことがない。いつも俺じゃない誰かの事を考えながら、俺の目を見て話す。笑う。その白くて細っこい脚をいっぱいに開いて、俺を受け入れる。臨也さんが見ている人が誰かなんて、わかりきっているのに、臆病な俺は臨也さんに何も言えずにいた。
 上辺だけの関係。臨也さんの傍にいられるなら、そんな関係でも縋っていたかったから。

「やぁ…っ!はげし、ぃよお…ま、おみ…ぅんッ…ああ、っ」
「や、じゃないっすよ、ね?」
「んっ、…も、生意気ぃ……」

 拗ねたように顔を赤らめるのが可愛くて、思うままに、内奥をえぐるように突く。こんな顔、やってる時以外じゃ絶対見せてくれない。臨也さんの顔を目に焼き付けて、それが消えないように瞼を閉じながら少し腰を引き、また穿つ。これを何度も繰り返すと、臨也さんは切なそうな声でキモチイイと喘いだ。

「や、あ、きもちぃ、も、…あ…い、いくぅ、ッア、あああっ、」

 細い腰をしなかやかに跳ねさせて、びゅくびゅくと精液を弾けさせる。キュウ、と中が締まるのが、俺を放すまいとしがみついてくれているみたいでなんだか嬉しかった。


 ……そう、嬉しかったから、臨也さんが果てる直前にあの人の名前を呼んだのは、気が付かない振りをしよう。






 裸のまま、だらりとベットに横たわる。臨也さんとセックスした後はいつもこうだった。夜は忙しいと言う臨也さんに合わせて日が高いうちからセックスをするためか、寝るでもなく、何をするでもなく、ただぼんやり、まったりと時を過ごす。俺はこの時間が好きだった。セックスだけじゃなく、まるで恋人同士になったみたいな錯覚を起こさせてくれる、この時間が。
 心地よい脱力感に浸りつつ、ぬるま湯のような雰囲気に身を委ねる。臨也さんは俺に背を向けてベッドに腰掛け、携帯を操作しているようだった。枕に頬杖を付きながら一矢纏わない臨也さんの背中を見つめていると、華奢な腰が不意に捻れ、眼前にタバコの箱が突き出された。

「正臣くんも、吸う?」
「……どうしたんすか?いきなり」


臨也さんがタバコを吸う事はけして珍しくはなかったが、俺にタバコを勧めるのはおそらく初めてだった。

「いやあ、俺だけ吸うのも何か悪いかな、って。正臣くん位の年齢の子って、こういうの欲しがるじゃない?」

 ダメって言われたらやりたがるっていうか、大人振りたがるというか。
 苦笑しながら緑の箱を振る臨也さんの手に、一本のタバコが誘うようにするりと滑り出た。

「いや、俺は……未成年ですし」

遠慮しておきます。断ると、臨也さんは少しだけ驚いたような顔をして、なよやかな指ではさんだタバコを自らの口に移動させた。異様に赤い唇がタバコを咥え、やがて紫煙を吐き出す。

「真面目なんだね」

意外と。そう付け足して、臨也さんはにこりと笑った。

「俺っすか?やだなー、もう真面目中の真面目っすよ。真面目すぎて困るくらい」

わざとおどけた風に言うと、臨也さんは一瞬だけ目を丸くしたあと、ぷっと吹き出す。

「真面目な子はこんな事しないよ。今日平日だし、学校あるんでしょ」
「…はは、今日は休みっすよ?」
「嘘つき。俺を誰だと思ってるのかな」

学校さぼって俺とこんなことしてちゃだめじゃない。まだ、中学生なんだから。

 どこか諭すような臨也さんの言葉。俺は頬杖をゆっくりと外し、臨也さんをじっと見る。臨也さんは相変わらずにこにこと笑って、どこか上の方から俺を見ていた。

 子供扱いは止めてください。

 その一言が言えたらどれだけ楽になるだろうか。楽になるんだろうけど、言わない。言えない。敢えてそれを隠す。だって、子供扱いされて怒るなんてそれこそ子供みたいじゃないか。

 そうだ正臣、冷静になれよ。

 臨也さんの笑みを崩したいなんて、もっと色んな表情が見たいなんて、誰も知らない臨也さんを俺だけに見せてほしいなんて、余計な事は考えるな。そんなのはセックスの最中だけでいいだろう、充分だろう、


「臨也さん」


 言うか言うまいか迷って――迷っていたはずなのに、気が付けば俺は臨也さんの形のよい唇に挟まれたタバコを指差しながら口を開いていた。


「ソレ、同じ銘柄なんすね」



 暫くの静寂の後、臨也さんの指からタバコが滑り落ちた。全てと無関係ですと言うかのように、それはひどくあっけなく落ちた。
 余計な事を言ってしまったと気付いたのは、タバコを落とした事にすら気付いていない臨也さんが、目をまん丸に見開いて顔を真っ赤にしたのを見た後だった。それは確かに俺が望んでいたものだったのだけれど。


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