表面が硬いタイルで平らに覆われた浴室はよく声が響く。反射された音がさらに反響し、臨也は自らの甘い声や荒い息に鼓膜をふるわせた。

「あ、…ちゃ、シズちゃん、うあ、ぁあ!あ、ア」

まるで熱に浮かされたように静雄の名を呼ぶ。当然、バスルームには静雄などいないが、静雄の名を呼び、己の静雄を呼ぶ声が浴室で反響することで、臨也はどこか虚しくも満たされてゆく自分に溺れていた。きもちいい。たまらず目を閉じればそこに静雄が立っているようにさえ思えた。

「ぁ、うぅ…きもちい、よぉ…っ…ず、ちゃん…シズちゃん……」

脳内で思い描いた静雄、己を抱く彼が立つ辺りに手を伸ばすが、そこにはタイルが貼られているだけで温かい体温などはとても感じられなかった。指先に当たった冷たいそれをつう、となぞりながら無理矢理己を高めさせるために、ふるふりと震える自身を扱く右手の動きを早める。

「、ぁ、なか、なか……だしてぇ…」

差し込まれたノズルを深く突き刺し、コックを少し捻れば、まるで腸内で射精されたかのような快感が臨也を襲った。たまらず腰を跳ねさせる。

「ゃ、ひゃうぅ!ぁ、あん!あ…ぁ、なかぁ、なかあ!いっぱいらよぉ…ッ」

大量に水を注入し終え、震える手を伸ばしきゅっとコックを閉める。シズちゃん、シズちゃん。静雄の名を呼びながら勃ちあがった自身を根元から先の方まで扱きあげてやると、やがてそれはびくんと一度大きく震え、ピュウピュウと勢い良く精を吐き出した。

「ひあっ…!…っは、あ、はあ…」

しばらく余韻に浸りながら、正面に取り付けられた鏡を眺める。湯気で曇りかけているそれにはわずかに精液が飛んでいた。白く濁った精液が臨也の顔にかかっているようにも見える。

「…………ばかみたい」

ぽつりと呟き、苦笑いを零しながら再びシャワーを手にする。勢い良く水を出すと、鏡のなかの臨也の額あたりについていた臨也の精液は頬を伝い、先程まで臨也にとって静雄の精液だったものと交錯しながら、床に貼られたタイルの溝を伝って排水溝へと流れていった。水で曇りを除かれた鏡には髪を乱し顔をほてらせた臨也が独り、くっきりと映る。どうしようもなくむなしい。はあはあと荒い息が浴室に反響しても、臨也はもう快感などは微塵も感じなかった。








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