※女体化、百合です







「折原ってマジむかつく」
「ちょっと顔がいいからって調子のんな、みたいな。性格サイアクじゃん」
「2組のコが彼氏寝取られたってマジ?」
「ハァ!?それマジで言ってんの?ありえないんですけど」
「ね、ヨウコの彼氏って超強いんでしょ?ボコってもらいなよ!」
「ヒロシ先輩でしょ!先輩って、前他校の番長シメたらしいじゃん?」
「マジで?ねーヨウコ、頼んでみてよ」
「いいよ!ヒロくん、ヨウコの言うこと何でも聞いてくれるもん」
「さすがアツアツカップル!もうすぐ二年だっけ?」
「えー超うらやま!で、折原どーするよ?」
「やっぱ顔はボコってもらわないとだよねえ」


…更衣室は嫌いだ。
体育の授業は嫌いではないが、その前後の10分が苦痛で仕方ない。授業の前に制汗剤、授業の跡にも制汗剤。臭い香水をふりまき、たいして動きもしていないのに髪をくしで梳かし、落ちてもいない化粧を上塗りする。
口が動いていないと死ぬのか、と思うほどに、そいつらは着替えながらペラペラと喋り倒した。主に、折原臨美について。
入学してすぐに校内一と噂されたその美貌もさることながら、彼女の奔放さはひどく注目をあつめるものだった。誰々先生と、だとか、誰々の彼氏と、だとか。そういった噂に興味の無い私の耳にも入るくらいなのだから、臨美の噂というものはこの高校にいれば必ず耳に入るといっていいのかもしれない。今のように、「折原ボコる」とかいう噂も、何度となく聞いた。しかし臨美が涼しげな顔をして艶やかな黒髪を風に遊ばせ、毎日違う車で登校してくるのは変わらないので、計画のいずれもは失敗に終わっているのだろう。
そんな臨美をどのようにして痛め付けるかという話が白熱しつつある時、不意に間延びした声が響いた。

「あーつかれたぁ」

女達が一斉にドアを振り替える。そこにはだらしなくジャージを着た臨美が、ポニーテールにした髪をほどきながら立っていた。

「体育のセンセってほんと熱血だよねー。前回休んだからってわざわざテスト受けさせられたんだけど。別に0点でいいのにな」

うけるー。
そう言って、先ほど臨美をどのように痛め付けるかという議論をしていた連中に笑いかける。連中はひくついた笑顔を浮かべ、律儀にも「そうなんだ」と小さな返事をした。
臨美はそれを聞いて、モデルやらも顔負けだろう笑顔でうんうん、と頷いた。頷いて、ジャージのポケットから取り出した携帯をおもむろに操作しだす。何事か、と更衣室中が沈黙に包まれたが、臨美だけはその沈黙をやぶるように鼻歌を歌いながら携帯をカコカコと操作した。

「でも、臨美的にはもっとうけることあるんだよねえ。知りたい?」
「…はァ?」
「あはっ、ねえ、これなあんだ?」

操作の終了した携帯を突き付けられたヨウコの眼前に何が見えたのかはわからなかったが、ヨウコの黒く縁取りされた目は大きく見開かれ、彼女は言葉を失った。

「……どう?うけるでしょ。ヒロシ先輩って、意外とちんこちっさいんだね。見た目ごついからちんこもおっきいと思ってたのに、残念。あとね、「気持ち良い?」とかいちいち感想聞いてくんの。きみのミニマムでそんなの聞くの、って感じ。……ね、うけるでしょ?あははっ」

無邪気に笑う臨美とは正反対に、ヨウコはどんどん色を失っていく。臨美のセリフから携帯に何が表示されているのかを感じ取った連中が、まるで病人にするかのようにヨウコの背中をさする。両脇を取り巻きで固められ、更衣室を後にしようとしたヨウコは泣きながら「折原テメーマジ覚えてろよ」とお決まりのセリフを吐いた。

「あれ、おもしろくなかったかな」

臨美は大きめのジャージを脱ぎながら、残酷に笑う。「平和島さん、鍵よろしく」という言葉を残しほかのクラスメイトが逃げるように出ていって、更衣室は私と臨美の二人きりになった。

「…シズちゃんもさあ、ぼんやり聞いてないで何か言ってくれればよかったのに」

ぶつくさと文句をたれながら、臨美は体操服を脱いでいく。惜し気もなくさらされた白い肌に、いくつか赤い跡が浮かんでいるのが見えた。

「……臨美さあ」
「ん?」
「好きなの?なんたら先輩のこと」
「タケシ先輩?うん、愛してるよ。ヨウコもハルコもアキエも、愛してるよ。あたしは、人間が好きなの!」

恍惚とした表情で愛を叫ぶ臨美。あげられた名前に私のそれが無かった事がなんだか無性にイライラして、私は臨美の白い肌が映し出された、さっきの連中が忘れていった鏡を力任せに叩いた。臨美はカッターシャツのボタンを止めながら、机ごと破壊されたそれをちらりと見てニヤニヤと笑う。

「やだあ。何、シズちゃん、嫉妬してんの?」
「……別に」
「あはは、ちゃんとシズちゃんのことも好きだよ?」
「うるせえ」
「シズちゃんかわいい」
「うるせえって」
「シズちゃん」
「しねよ」
「……ねえ、シズちゃん」

さわりたい?

ぷるぷるとしたピンク色の臨美の唇が弧を描く。

「だまれ」

私はまるで何かにつられたかように臨美の白い手首を掴み、乱暴にひきよせた。きんこん、どこか遠くで私のきらいな10分間がおわる音がした。




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