「そうか。じゃあ俺の好きなようにやらせてもらう」

シズちゃんはそう言って、にいっと歯を見せて笑った。そういえばこいつは小学生の時に歯のコンクールで賞を獲ったことがあるらしい。高校の時にしらみつぶしに調べたシズちゃんの情報をぼんやりと思い出す。そんな、ちょっとした懐古なんてシズちゃんが知るはずもなく、両足首をがしりと掴み、膝が顔に付くくらいまでそれを倒された俺は、壁に預けていた背中をフローリングの床へとシフトするしかなかった。首が痛かったのでずるずると床面積を増やしていくと、こんどは背骨が痛くなった。俺がどうしようと、痛いのに変わりはないらしい。好きにしろと言ったのは自分だが、なんとなく無性に泣きたくなった。

「いい恰好じゃねえか、臨也くんよお」

シズちゃんは両手で俺の足首を持ったまま、何が楽しいのか、俺の太ももの間から首を伸ばして頬をべろりと舐めた。気持ち悪いことこの上ない。俺は顔を反らせてざらついた生ぬるい舌から逃げた。それが不快だったのだろう、シズちゃんに近い、右耳の鼓膜は舌打ちによって震えた。

「逃げてんなよ」
「……うるさい」
「好きなようにしろっつったのは手前だろうが」
「…言ったけど、嫌なものは嫌だ」
「……あん?……じゃあコレは、どういうことだよ」

俺の腿の間の自身は、先ほど達したにも拘らずふるふると震え、あまつさえ先走りを垂らしているというなんとも情けない状態だった。

「さっきイったばっかりなのに、ダラダラ垂らしやがって。汚ぇなァ、臨也くんよお」

なんでこんな奴にこんな事をされてこんな風になっちゃうんだろう。感じている事を示す自分のペニスが、まるで「してほしい」かのようにさえ思える。

「……クソッ、死ねよ」

まるで自分に言うようにそう吐き捨てると、シズちゃんは不快そうに眉をひそめた。
やばい。
その表情をちらりと見た俺は、なんとなく、いやな予感がするのを全身で感じ取っていた。
例のごとく、俺の直感は冴え渡っていたようで、ジイイ、という音がしたかと思えば、シズちゃんの無駄にご立派なアレが俺のケツの穴にぐりりと押しあてられ、無理やりねじ入ってきた。必死に抵抗したが、彼にとっては比喩でもなんでもなく蚊に刺された程度の痛みでしかないのだろう。本来排泄する為に作られたはずの場所は、普段と真逆の衝撃に耐え切れず脳に強烈な信号を送った。

「、ッぐ…!」

あまりの痛みに声も出ない。じわりと視界が歪んだ。足の筋肉がびくびくと痙攣し、勝手に溢れてきた涙で視界が滲む。

「……くっそ、やっぱキッツイな…」
「…、っあ…、くぅッ…」
「おい、力抜け」
「…、む……りっ…」

女とは経験があるし、相手もキモチヨクなってもらうほうがこっちも燃えるから、女がどうすれば楽になるかくらいは知ってる。こういう時は息を吐いて力を抜けばいいことくらい、知ってる。
でも、実際受け手に回った俺には、行動に移すことは不可能に近かった。
喉はヒッヒッと勝手に酸素を吸うだけで深呼吸なんてできそうもないし、力なんて抜きようがない。

「クッソ…手前、力抜けって…」
「……、ッ……ひ、…」
「……ああ畜生、めんどくせぇ」

チッ。何度目かの舌打ちのあと、シズちゃんが急に近くなった。今までも、これまでにないほどの近距離ではあったが、そんな比じゃない。カメラのレンズごしにズームしているようにゆっくり、だが確実にシズちゃんの顔は俺に近づく。もうすぐ鼻が、くっつく。あ、いやだ、

「…やっ!……んぅっ、」

そうして、シズちゃんが俺の唇に触れた。
さっき口を塞がれた時とは明らかに、何かが違う。ぬるり。なま暖かく、ぬめぬめとし、かつざらついた舌が、強く引き結んだ唇を割って侵入する。歯を食い縛っていたために口腔に侵入されることはなかったが、歯列をなぞるように舐めとられる。

これ、は、キスだ。

そう判断した瞬間、俺は全力でシズちゃんを突き飛ばした。




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