「付き合ってくれ」
「……は?」


いつもどおりのはずの日常の中、唐突に発せられた言葉によるあまりの驚きに、俺は情報屋という仕事をしているにも関わらず、開いた口を閉じるという至極基本的な動作の方法すら忘れてしまったようだ。

そんな状況で、沈黙の後ではあるがかろうじて「は?」と、一音の疑問を伝えた俺を誉めてあげたい。
いや、付き合って下さいだとかの告白をされた事は何度もあるから、その事に対してはたいした驚きはないんだけど。

いかんせん相手が相手だ。

「好きだ、臨也」

真剣な眼でじいと俺を見つめる金髪グラサンバーテンのお前、誰だよ。

「…シズちゃん…だ…よね」

特徴だけを言うならば確実に平和島静雄その人なのだが、平和島静雄が確実に言わない事をこの平和島静雄は言う。

平和島静雄―シズちゃんは俺が嫌いだ。いや、嫌いなんかでは足りないかもしれない。嫌いという言葉の最上級だ。ドントライクどころじゃないだろう。dislike…hate…そうだな、detestくらいではなかろうか。

俺はというと彼の事はそんなにいうほど嫌いでもなかったのだけれど、あれだけ嫌いやら死ねやら言われたら嫌いになってしまうのが俺の愛する人間というもので、それは俺も例外ではない。
つまるところ。畢竟的に言うと、俺は彼が俺の事を嫌っている前提で彼が嫌いなのだ。

そんな彼から「付き合ってくれ」と言われたのだ。
付き合ってくれ、だけだったら「ええどこに?トイレくらい1人で行きなよ」とでもはぐらかす事ができたのに、続いた言葉は「好きだ」。
一体全体どうしたものかと俊巡していると、訝しげに顔を歪めたシズちゃんは「ああ?何言ってんだ手前」と、いつもの、低く唸るような声のトーンを出した。

「あー…うん、ごめん。えーと」
「おまえが好きだ、臨也」
「あー…うん」

本当にどうしたものか。
あれだけ嫌い嫌いと公言していたくせに、急に完璧な逆転を見せるなんて一体何なんだ。
よくよく考えれば、お前なんか嫌いだバカ、と突き放して笑い話にしてやるのも良かったのかもしれないが、この時の俺はどうかしたのかそういった事は全く考えていなかった。

「好きだ…」

繰り返し呟かれる同じ言葉に、俺はパニックに陥ってシズちゃんの胸を強く押して逃げ出そうとした。

「臨也」

しかしそれはかなわず、シズちゃんはびくともせずに俺の手首をがしりと掴んだ。

「…っ、放して」
「いやだ」
「放せ!放せってば!マジで!」

遠心力を使って振りほどこうと、腕を思い切り振り上げると、最高点に到達したときにシズちゃんは力任せに俺の腕を引いた。

唇が、重なった気がする。

目の前が真っ白になった。






「うわあああああっ!!」
「…何なのよ、うるさいわね。居眠りするのはいいけどせめて迷惑はかけないで頂戴」
「…あ、れ…なんで波江がいんの?」
「ハァ?ちょっと貴方、大丈夫なの?」
「…あれ?」

慌てて辺りを見渡すと、そこはほかでもない俺の事務所で、シズちゃんの姿はどこにも見当たらなかった。

なんだ、夢だったのか。

少しだけ残念に思った俺は、きっとまだ寝呆けているんだろうと思う。




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