「シズちゃんはさ、霊とかって信じてる?」

白いシーツを足で弄びながら、ピロートークにおよそ相応しくない話題を口にした臨也は宝石と見まごうような赤く輝く瞳で静雄を見つめ、答えを待った。
静雄は程よく筋肉のついた腕を臨也の腰から移動させて頭を掻く。

「…何言ってんだ、手前は」

静雄の恋人―臨也は少し電波な所がある。よく言えば個性的とでも言えるだろうか。確固たる自分の意見を持っており、それについて話し始めるとペラペラと澱みなく何分も話しだす。今回もそれか、と心中でため息をつきつつ静雄は臨也の艶やかな黒髪を梳いた。

「ふと、ね。思ったんだ」

臨也はふ、とくすぐったそうに笑いながらも憂いの表情を浮かべた。仮定の話だよと前置きして、話が長い時にいつもするようにすう、と息を吸った。

「例えば、俺がポックリと死んじゃったとする。俺はあの世とかそういうの信じてない…幽霊とかそういう類もまた然り、ね。だからつまり、俺の持論が正しければ」

静雄の、筋肉のついた腕に頭を乗せていた臨也がゆっくりと顔を上げて頬杖を突く。

「俺はそこで終わりになるわけ」

言いながら、かくん、と首をかしげて静雄に微笑みかける。
やわらかな髪を梳いていた手がふいに止まった事が気に入らないのか、唇をすこし突き出してから、臨也は再び話を続けた。

「俺は霊なんてものは残された者の都合でできたんだと思う訳。残された者が、寂しさのあまり造り出す妄想。ね、シズちゃんもそう思わない?」

疑問形で問い掛けておきながらも静雄が答える間も、考える間すら与えずに臨也は口を開く。

「ひどい自己満足だよね。依存していた奴は見守られてる、なんて勘違いしちゃったりして、自分に落ち度があると思ってる奴はありもしない幻影に勝手に怯えてさ、ほんっと、面白いよね人間って」

最後の方は笑い声が混じり、聞き取りにくかったがそれでも一メートルも離れていない静雄の耳にはたやすく届き、眉間に皺をよせて「不謹慎なんじゃねえの」と言った。人の死を笑い事にする臨也に人間として嫌悪感を抱いた。

「ああ、気を悪くしたならごめんね。あくまでもこれは俺の持論―…そう、同じ、妄想だから」

自嘲するように笑う臨也は、おそらく静雄の表情から少しばかりの嫌悪感を感じ取り、取り繕うように謝った。
臨也があまりにも素直に謝ったので拍子抜けした静雄は口角を上げて、「まあ、いいけどよ」と呟いた。

臨也はそんな静雄に甘えるように首に手を伸ばし、肩口に顔を埋める。静雄もそれを拒む事をせずに臨也の形の良い頭を撫でてやった。

「シズちゃん、すきだよ」

ふふ、と至極楽しそうに笑い、臨也は愛を告げる。珍しい事だった。普段は山より高いプライドが邪魔するのか恥ずかしがってどれだけ促しても言おうとはしなかった。
そういえばタバコの臭いを嫌がる臨也の為にと禁煙を始めた時に一度だけ言った気もする、思い出しながら静雄は「知ってる」と囁いて臨也の広い額にキスをした。
臨也は恥ずかしそうに笑いながら、それでも幸せそうな表情をして、

「だからね、俺を造り出してね」





耳元で風のように爽やかな声が過ぎていった気がした。


ワンルームの汚い部屋は相も変わらずタバコの臭いが充満していた。灰皿には二箱分ほどの吸殻が積み上げられ、その横には無造作に置かれた発泡酒の空き缶が転がる。滴った飲み残しがフローリングに小さな水溜まりを作っていた。静雄はシングルのベッドに寝転がり、冷たい枕に頭を乗せて布団を抱きしめながら足でシーツを弄んだ。


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