メリークリスマス。

庶民はおろか、貴族のなかでもごくわずか、選ばれた人間しか招かれることのないお城のクリスマスパーティー。
この度新しくできた治安ナンチャラ法によって投獄されていた俺が何故か――本当に何故だか地下の牢屋に現れた、サンタクロースの服を着て白ヒゲをたくわえた国王様に連れていかれた先は、そのパーティー会場の花形、玉座に座る王子様の足元だった。

「日々也、メリークリスマス!」

俺を玉座の前に放り出し冒頭のセリフを吐いた王様は、お酒が入って赤ら顔になりながら楽しそうにハッハッハと笑って人の群れの中へと消えていく。

「ちょっ、待っ…」
「……なぜお前がクリスマスプレゼントなんだ」

王様の後ろ姿に手を伸ばすと、氷柱のように冷たくとがった声が背中に突き刺さった。おそるおそる振り返ると、まるでなにか汚い"モノ"を見るような目で王子様が俺を見下していた。
金色の王冠を濡れ羽色の髪にかがやかせるこのお方こそ、この国の第一王位継承者、日々也サマだ。まだ若いが、頭脳明晰かつ容姿端麗の王子様は城下ではかなり評判がいい。老若男女問わず人気を集め、ポスターやカレンダーはバカ売れ。もはやアイドルみたいなものだ。日々也様の笑顔は日々也スマイルという名前までついている。そう、今までテレビや式典なんかで見た日々也サマはそれはそれは美しい笑みを浮かべていらっしゃったが、今俺の目の前におられるお方はなんというか…ひどくご機嫌が悪いようだ。

「…それは俺が聞きたいっすね。最近流行りのゲームとか……オウジサマにふさわしいものはいくらでもあると思うんですが」
「子供扱いするな、殺すぞ」

……つまり、テレビなんかで見る日々也サマとは別人だ。

朝の五時あたりにやっている国営放送の「今日の日々也様」別名「今日日々」。たいしておもしろくもない番組しかない朝方、ちょうど仕事も終わり、風呂上がりのビールとともに見るのが習慣になっている。政務から日常のご様子、新しいグッズの紹介なんかを淡々と紹介するこの番組をもうかれこれ5年近く見続けているが、俺の日々也サマは目の前の高慢冷淡王子様じゃない。
もっと深窓の貴公子的な感じだ。
触れたら壊れてしまいそうな、砂糖菓子かガラス細工みたいな痩躯。白く雪のような肌に、艶やかな赤い唇。今日日々では毎朝、そんな日々也様がふわりとやわらかくほほ笑みながら「国民のみなさま、おはようございます」なんて挨拶するもんだから、思わずテレビに向かって「あっ…おはようございます」と返してしまう。
そんな国民は俺だけじゃないはずだ。

俺が城の警官隊に包囲された日も、テレビの中の日々也サマは相変わらずのうつくしい微笑みをうかべていらっしゃった。「本日が貴方にとってすばらしい日になりますように」と締めの言葉とともに手を振り、番組タイトルがでっかく表示されたテレビに向かって小さく手を振った……のに。

「ああ…お父様……以前からクリスマスには島が欲しいとお願い申し上げていたのに、何故ですか…」
「ハァ!?島!!スケールでけえな!!サンタさんの袋入らねえよ!」
「は?どこが?島なんて海に浮かんでるだけの座布団みたいなものでしょ。……本当は国と民が欲しいんだよなあ。お父様王位譲ってくれないかな…」

ふう、と麗しいお顔を歪めてため息をつくオウジサマ。その横顔だけは「今日の日々也様」と同じなのに。

「っていうか何見てんの?お前みたいな賤民が俺を直視していいとでもと思ってんの?」

せめてサングラスでもかけろよ。
ハッと鼻で、小馬鹿にしたように笑いながら細長い足を組みかえる。
嗚呼、麗しの日々也様。俺が投獄されてた数日の間に貴方に何があったんですか。






――――――
城下に発せられた娼妓を取り締まる〜みたいな法律によって投獄されたデリ(ホス)雄が日々也様のクリスマスプレゼントになっちゃったよ!という話。まあ、間に合いませんでしたよね。
島の名前はもちろん平和島。


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