空中デート



ちょっと、悟飯くん、聞いてよ。
今日私、とんでもないもの見ちゃったのよ、…それとも、あれが普通なのかしら…ううん、そんなわけないわよね。

悟飯くんの家に行こうと思って、私、舞空術で空を飛んでいたのよ。
今日は学校もお休みだし、天気もいいし、悟飯くんとどこか景色のいいところに行きたいな、って思ってたの。
春の若い木の葉っぱが、太陽の光にきらきら輝いてとってもキレイだったわ。
それでね、ちょっと遠くからだったから分からなかったんだけど、左側の方に悟空さんみたいな、オレンジ色の服を着た人が見えたのよ。
ああ、そっか、悟空さんもどこかに行くのかしら。と思ってよく見てみたら、すぐ隣に、青い服の、ちょっと背の低い――そう、ベジータさんって言ったわね、あの人がいたの。
あの二人って、いっつも喧嘩してるみたいでしょ?悟空さんが何か言うたびに、ベジータさんって怒ってるじゃない。
折角悟飯くんのお父さんに会ったんだし、ごあいさつをしようと思って、私少し近づいていったのよ。
何度も言うようだけど、二人とも本当にいつも仲が悪いから…てっきり、また喧嘩してるものだと思ってたの。
でもね、遠くから見る限りでもそういう感じには見えなかったのよね。
随分近くに二人で居るから、修行好きの悟空さんのことだし、ベジータさんと二人で修行をしているのかとも思ったんだけど、どうも違うみたいなのよ。
よーく見てみたらね、何か話しこんでるみたいだったんだけど、遠すぎて声までは聞こえなかったわ。
ちょっと変だなぁって思って、すぐに声かけるのはやめて、気づかれないように後ろからゆっくり近づいてみることにしたの。
何となく、女の勘ってやつかしらね。

それでね、本当にびっくりしたのはそのあとなの!
最初、私の見間違いかしらって思ったわ。
だって、悟空さんの腕が、ベジータさんの肩に回ってたんだもの!
それだけでも十分驚いちゃって、ちょっと立ち止まっちゃった。
でもね、何か無理やりにイジワルでもしてるのかしら。って思ったの。悟空さん、よくベジータさんを怒らせて面白がってるようにだったから。
なんだけど、よく見たら、ベジータさんの腕が悟空さんの腰に回ってたのよ。あのベジータさんの腕が、よ?
一瞬、何のことか分からなかったわ。
これってどういうこと?って、頭が真っ白になっちゃって。
二人ともぴったりくっついて、静かに空中を移動してるみたいだった。
空中飛んでる人間なんてあんまりいないから、見られてるっていう前提がないのね。
後ろから見てると、ベジータさんって悟空さんよりだいぶ背が低いのね。
ぎゅっ、て悟空さんの腰のあたりの胴着を、白い手袋の指が掴んでたわ。
悟空さん、そうしたら、見た事無いくらい優しそうに、ベジータさんの方に顔を寄せたの。
それでもベジータさんったら、何の抵抗もしないのよ。文句の一つも言ってないの。

それからようやく、これってもしかして、って思ったわ。
悟空さんとベジータさんって、男同士だけど、もしかして、もしかしてそういう関係なのかしらって。
そう思ったらもう心臓がドキドキしてきちゃって、かーって顔が熱くなっちゃった。やだ、恥ずかしい。
だって、あの能天気な悟空さんと、気難しそうなベジータさんなんて、どこからどう見ても気が合わなそうじゃない?
それに男同士だし…、二人ともあんなに綺麗でしっかりものの奥さんがいるのに。
まさか、って思うじゃない。

そのとき、悟空さん、突然ちらっとこちらを振り返って、にやっと笑ったの。
びっくりしたわ。体中の毛が逆立ったような気がした。
私が遠くから近付いていってること、どうやら本当は悟空さんは気づいてたみたいなの。
どうやって気づいたのかしら、ずいぶん遠くから近付いたんだけど。
でもね、ベジータさんは何かに夢中で気づかなかったみたいで、――何か、っていうか、きっと悟空さんに夢中だったのよね。

それでね、悟空さんのその笑顔が、いつも私が見たことのある、優しい笑顔じゃなかったのよ。
何か悪いこと考えていそうな、ちょっと背筋がゾッとするような、笑顔だった。
私、今まで空中飛んでても高いところが怖いなんて思ったことないし、怖い敵を見てもそんなに怯まないの。
だけど、今回はね。
悟空さんが、とっても怖かった。どうしてか分からないの、でもすごく怖かったのよ。
金髪になってるわけでもなかったし、いつも通りの黒い髪の悟空さんだったんだけど、でも凄く怖かった。
足が竦んじゃったの。
私が怯えた表情をしたのが分かったのね。
悟空さん、すぐに目線を外して、そのままベジータさんにまた顔を近づけたの、今度は頬を近づけるんじゃなくて、正面から。
ベジータさん、自分からゆっくり顔を上げて、そのまま顔がくっついたのが見えたわ。
ううん、悟空さん、私に見せつけてたのかもしれない。
男同士のキスシーンなんて、って思うでしょ?
でもね、びっくりするぐらい、もう私、何だかドキドキしちゃったのよ。
だって、ベジータさん、ちょっと顔を赤くして、目を閉じてるんだもの。
あの、高慢ちきなベジータさんが、悟空さんに大人しくキスされてるのよ?
それに――その、何だか、その表情がちょっと色っぽくて。
ベジータさんってあんな顔するのね。どうしてか分からないけど、すごくすごく、色っぽくてね、綺麗だなって思った。男にこんなこと思うなんておかしいかしら。でも、本当に色っぽくてちょっと可愛かったのよ。
そうしたら悟空さんが何度も角度を変えて、どんどんエスカレートしてくの。
ちょっと遠くだから音までは聞こえないんだけど、ちらっと赤い舌が見えたりして…
真昼間なのに、こんなに春の風が気持ちいいのに。
まるで、夜中に、カップルの部屋をカーテンの隙間から覗いてるみたいな気分だったわ。

キスの最中、もう私、見ていられないって思うのに足も動かなくて、その場に立ちつくしてたの。
ちらっ、ともう一回、悟空さんがこっちを見たわ。
目だけで笑ってた。
やっぱり見せつけてるんだって思って、もう私、何が何だか分からなくて。
だけど、私に見られてるってことをベジータさんが知ったら、ベジータさん、絶対怒るでしょ?
そうしたら、二人の時間を壊しちゃうことになるじゃない。
二人とも家族がいて、それでこんなことやってるって、それってダブル不倫だと思うんだけど
でも、私には二人の時間を壊す勇気なんてなかった。
何より、今の悟空さんがすごく怖かったの。
そっと唇を離したのが見えたから、もうこれ以上ここにはいられないって思って、私、なんとか震える足で踵を返したわ。
追いかけてこられたらどうしようって思ったけど、後ろは振り返らないで全力で逃げた。

それで、そのままここに来たのよ。
ねえ、悟飯くん、どうなってるの?
悟飯くんのお父さんと、ベジータさんて、どういう関係なの?
悟飯くんは知ってるんでしょ、だって今全然驚いてなかったもの。分かるんだから。




END.






はい、突発wwwwwwwww
他のジャンルでよく見かける、第三者目撃談。
そういやカカベジで読んだことがなかったので、カカベジでやってみた。
チチとかブルマさんとかもちょっと考えたんですけど、妹に「ビーデルは?」って言われてビーデルに決定ww
あー、楽しかった。




101028

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