崩壊




ベジータとヤった。
経緯は、特筆するようなものではなかった。
というより、自分でもよく覚えていないというのが正確なところだ。
超化した姿が見たいというから超化したのだ、そこまでは良かったのに。

闇に包まれつつある群青の冷たい風の中を、悟空はゆっくりと飛んでいく。会いたいのか会いたくないのか。あんなことがあったあとに、どんな顔をして会えばいいのか分からなかったけれど、最後に会った記憶があんな後味の悪いままだなんて嫌だという気持ちもあった。
無理やりだったのだ、と思う、確か。超化して興奮していたから、自らの感情の動きだというのに今は到底理解しがたい。
冷たく突き放すように、高いプライドで人を近づけさせないあのベジータの態度が変わったということは間違いない事実だった。それも、自分が超化したそのときだけ。同一人物に対するそれとは思えないほど、彼は全く違う顔を見せた。


あの目。
うっとりと舐めるような。


ズキン、と頭痛がする。
それを見て、自分の中で何かが音を立てて切れた。
我に返って気づけば、彼は無惨に破けた服を絡み付かせたまま股を血だらけにして気を失っていたし、自分はその男の首をまさに絞めんとするところだった。
超化が解けた瞬間というのは、身体全体から穴のあいた風船のように力が抜けていくと同時に、一気に醒めゆく興奮のあとに空虚な後悔だけが遺される。
何をしようとしていたんだ、と自らの震える両掌を見つめて、それに彼のものと思われる黒い血が乾いてこびりついていたことに愕然とした。
それから、あろうことか、彼が気を失っているのをいいことに、そのままその場を去った。卑怯にも逃げたのだ。目を覚ましたら、どんな言葉をどんな顔でかけたらいいのか分からなかったから。

眠れない一夜が明けても、昼間中ずっと修行に集中できなくて、結局本人に会うしかないと今こうして向かっているのだ。
瞬間移動を使わなかったのは、ゆっくり近づくことで逆に相手の気の動きを探れるからだ。
もし逃げられてしまうなら、それもそれだ、と思った。

カプセルコーポレーションが見えてきたとき、ベジータが自分の部屋から動く気配がないことが嬉しくもあり恐ろしくもあって、やっぱり帰ってしまおうかと何度も本気で迷った。
しかし、彼の部屋の窓に着いてしまえばもうどうしようもない。しかも、それは悟空が窓から来るのを見透かしていたかのように開いていたのだから。

「何の用だカカロット」

窓をくぐると、背を向けて立っていたのは部屋の主だった。
刺々しい声は普段のそれとほとんど変わりない。

「い、いや……、あのよ……ベジータ……、」
「貴様のくだらん言い訳には付き合ってられん。」
「言い訳なんてするつもりねぇんだ、」
「じゃあなんだ。」
「……。」

悟空は答えられなかった。
否、最初から明確な意図を以て此処に来たわけではないのだ。
すると、薄暗い部屋の中で、逆立った黒い髪の毛の小柄な男が、両腕を組んだままゆっくりとこちらを振り返った。その挑戦的な唇には笑みが貼り付いている。

「…フン、貴様、自分でも何で来たのか分かっていないんだろう?」
「……そだな、…そうかもしんねぇ」
「貴様が超サイヤ人になれたこと自体、未だに信じられないな。ただの下級戦士にすぎん貴様が」
「………」
「サイヤ人の血に飲み込まれる貴様を見るのは一興だった」

アイロンのかかったシャツとズボンという地球人の服を着ているベジータは、つかつかと歩み寄ってくる。

「そのバカ面が、ああも変わるものなんだな。血に飢える獣に成り下がった貴様は、今よりよっぽどマシだったぞ」

平気で仲間を殺すこの男は、冷たい黒の瞳で悟空を睨め上げる。

「ほら、なってみやがれ。超サイヤ人に」

さきほどまで、罪の意識に苛まれていたはずだったのに、この男の高圧的で神経を逆撫でするような物言いに、いつの間にかその気持ちが薄れている。
人を傷つけても平気なこんな奴を、何故気遣わなくてはならないのか。

「大猿になったとき、自我を無くすなどと言っていたな。最下級戦士は意識が本能にすら負けるらしいな。」

まだ言葉は終わっていなかった。

「この俺は必ず貴様を超えてみせるぞ。いずれ俺が超サイヤ人になれば、感情のコントロールもできん下級戦士の貴様など敵じゃない」

彼は、珍しく手袋に包まれていない手で、悟空の胸をトンと軽く叩いた。

「怖じ気づいたのか?さっさと超サイヤ人になれと言っているんだ」

――なんのために、ここに来たんだろう。
悟空は、奥歯を噛み締めながら、気を集中させる。じわり、と翡翠の透明な緑色に変わる瞳は、やりきれない想いに冴え渡る。ざわりと持ち上がる髪の毛はその気と同じく黄金に輝く。

「………、フン、」

瞬間、膨れ上がる爆発的な気に押し退けられるように、ベジータは少し口角を引きつらせて一歩後ずさった。
しかしその顔は、やはり先程とは違う。
恐れと憧れを含んだ瞳。
直前まで心底から見下していたというのに。

なあ、おまえは、超サイヤ人が好きなのか。
金髪になって、つよけりゃ、別にオレじゃなくてもいいのか?
なあ、だったら、オレは今すぐお前を殺してやりたい。
この凶暴な本能がそう叫んでいる。

手に入らないくらいなら、生命ごと奪ってしまえと。

こんな恐ろしい内心を知られたくなくて、だけれど暴走する感情は胸の内で燃え立ち、身体全体にその熱が回る。

うっとりとオレを見上げるお前。

多分世界中の誰より、
本人であるオレよりも、
超サイヤ人が何たるかを知っているのはお前。

触れたくてたまらないのに、一歩踏み出せないその小さな手を掴む。

ほら、お前は抵抗しない。

「超サイヤ人ならなんでもいいんか。それとも、無理矢理ヤられるのが好き?変態。」
「……!何だと…ッ」
「だって」

黄金の戦士へと姿を変えた悟空は、ベジータの首を片手で捕えた直後、床に叩きつけるように押し倒した。力をかなり加減したというのに、床にヒビが入りかけて大きな衝撃に建物全体が震えたが、そんなことはどうでもよかった。

「…ッ貴様……!」
「……。」

悪態を吐こうとする小柄なサイヤ人の首を押さえたまま、指先でシャツの合わせ目を引っ張ると全て簡単に破れてしまう。当然、首を押さえている悟空の手を自由な両手で掴んで外そうと躍起になるが、今のベジータの両手は悟空の片手を少しも動かすことはできなかった。悟空にとってはベジータの必死な抵抗などささやかなものであり、まさか本気でやってこれだとは思っていなかった、超サイヤ人を前に抵抗しないでいるのだとすら考えていた。あっというまに晒け出された胸に、固い手を滑らせる。乳首を指先で転がしながら、ぴくぴくと立ち上がる乳頭を人差し指と親指でこりこりと弄る。
びくり、とベジータが肩を震わせた。

「おめぇ、ここ好きだよなあ」

呟きながら、もう片方の乳首にしゃぶりつく。ねっとりと舌で包み込むように愛撫して、軽く歯を立てながら舌先でチロチロと掠めると、ひっ、と小さく息を飲む音が聞こえた。
直後、足をバタつかせて暴れ始めるが、それを押さえ込むことなど今の悟空にとっては造作もないことだった。
下半身を包むズボンを一瞥すると、引き裂きながら下着ごとひっぱり下ろす。
そのとき、悟空はふと顔を上げた。

「…ブルマが来るぞ」
「……!」
「今、派手な音立てたからなあ…様子見に来たんだろ」
「はっ、…離せぇっ!」
「何慌ててんだ。オレは別にいいんだぜ、ブルマに見られても」

ベジータがどんなに身体をねじろうとしても、殴ったり蹴ったりしても、悟空はびくともしなかった。

「ちょっとぉ?今の音何?入っていいかしら」

ドアの向こうから女の声が聞こえた瞬間、ベジータの顔色が変わった。

「…!や、やめろブルマ…あとにしろ!なんでもないっ、」
「……ぷっ、くく……」

悟空は漏れ出る笑いを堪えられない。
怯えて慌てた声、屈辱と焦燥にまみれた表情。
あのお高くとまったベジータが。

「……そう?ほどほどにしてよね、家壊したら働いてでも弁償してもらうわよ!」

強い口調でドアの向こうからそんな言葉が聞こえたと思うと、カツカツとハイヒールの音が遠ざかっていく。
ふう、と安堵の息をついたベジータを、悟空は首を押さえつけたまま最高の笑顔で見つめた。

「あっはは、おめぇ、ブルマに頭あがんねぇんだなあ!」
「ち、ちがう!貴様、こんなとこ見られたら…!」
「なぁに言ってんだ。ブルマはきっとまた喧嘩してるぐらいにしか思わねぇよ。男同士でこんなことしてるなんて、」
「…!」

悟空は、ゆっくりときめ細やかな肌を降りて、下腹部から内腿を焦らすように辿る。外気にさらされた恥部ぎりぎりを何度も行き来してから、そっとなぞるように陰茎を撫でると、あからさまにベジータの頬が朱に染まる。

「それに、こんなにすんなり男を抱けるなんて、オレも驚ぇてんだ」

悟空はベジータの首を離して、直後に両足を抱えあげた。

「な…、何す……っ!」

昨日無理やり穿った箇所は、すでに血は止まっていたし自分で洗ったのか綺麗になっていた。
ベジータが、宿敵である己に傷つけられたこんな場所を自分で手当てしたのかと思うと、何だか面白くて仕方がない。

「綺麗になってんじゃねぇか」
「…やっ…やめろ…!」

両手で尻を割って広げてみると、ぷつりと傷が開いて、ピンク色をした肉からじわりと血が滲んだ。
傷ついた孔にゆっくり顔を近づけ、たっぷり唾液のついた舌でぺろぺろと舐める。びくん、と靴を履いたままのつま先がバレリーナのようにぴんと伸びた。

「なあ。何でこんなことされても」
「……ッ!!…っ、やめ…!」
「満足に、抵抗しねぇ?」
「やめろカカロット…っふぁ…!」

しつこく、そこに滲む血を味わうように舐めつづける。明らかに艶の混じった吐息が耳をくすぐり、触ってもいないベジータの陰茎がびくびくと反応しているのが見える。
ぬめる唾液を塗り込められたそこはとろとろに解れ、ちゅくちゅくと音を立てながら出入りする悟空の舌を小さく収縮しながら誘うそこは、傷ついているにも関わらず熱く滑らかで、狭そうながら受け入れようとしているかのようだ。

「う…、あぅ……」
「淫乱野郎。王子様が聞いて呆れるな」

先ほどとは逆に、悟空がベジータを貶めるように冷たく吐き捨てる。
濡れた唇をそこから離し、指を舐めてからそこに二本一気に奥まで入れ込む。

「くぁ…!」

中でぐちぐちと指を折り曲げる。ばらばらに動かしてやると、淫らに腰が揺れた。
弄ってもいない陰茎が、上を向いて震えている。

「うまそうに食ってんなぁ、オレの指」
「…ん、ん、もっ、やめ……!」
「やめねぇよ」

悟空は、ベジータの陰茎には目もくれず、片手で自分の前を寛げる。
すでに勃起していたそれを出して、少し扱きながら自分の粘液を延ばして全体に広げる。
ベジータの尻から指を抜いて、軽くそこにぬるぬると先端を擦りつけた。

「ひ…ッ、」
「力抜かねぇと、痛ぇぞ?」
「や…、やめ、やめろぉ…ッ、いやだ……!」
「そんな腰振るなよ、」

悟空は小さく口角を上げると、腰骨を掴んでそのまま勢いをつけて肉棒を埋め込んでいく。

「うぁあ、ああっ…!」

散々ねぶられたベジータのそこは、意外に易々と悟空の太くて固い肉を飲み込んでいく。
途中で傷が開いたのか、結合部からはたらたらと鮮血が伝っていた。
背中と喉を限界まで反らせて、縋るシーツもない床の上をベジータの爪がガリガリと削る。

「はぁ、ああ…あぅ…!!」

あれだけ慣らしてやったのに繋がってみるとやはり苦しいのか、息が浅く、勃起していたものも少し勢いを無くしている。
――だが、そんなものは知ったことではない。
先程だって、孔を弄っていたのは屈辱にまみれる姿が興味深かっただけだし、別に気持ちよくしてやろうなんていう気は初めからさらさらないのだ。

「は、最高だぜベジータ…おめぇん中……」

悟空は冷徹な緑の瞳を性的な興奮にぎらつかせながら、ずちゅ、と音を立てて最奥まで突き入れる。

「ぃあぁっ!」
「超サイヤ人になんてなれなくても…っ、おめぇは十分、イイ身体、してんじゃねぇか…」

――下半身だけは。
ぼそりと呟きながら、リズムをつけてギリギリまで抜いては突き刺す。
多少思いきりやってもそう簡単には壊れない、地球人と違ってサイヤ人の身体は丈夫でいい。
ぱちゅっ、と濡れた音が響くたびにベジータは固い床の上で揺さぶられて後頭部と肩がざりざりと擦れる。

「っ、あ、あ、は、っあ…あ、ぐ……」

どこか弱々しい嬌声がその小さな唇から漏れ、開いたままの目尻から、ぽろぽろと涙が伝う。
透明なそれが顔の横を流れて落ちていくのを、腰の動きは止めずに何となしに見つめる。

涙だ。

どうしてか、ズキリと胸が痛くなるような気がして、悟空は細い腰骨から片手を離すと、それを拭おうと指先を喘ぐベジータの顔に近づける。
固い指先が、目尻に優しく触れた瞬間、漆黒の瞳が怯えた。
身体を穿たれながらも、その顎ががたがたと震えている。

「…ベジータ?」
「……っ、っ……」

ぼろぼろと、涙が溢れて床に流れ落ちる。
悟空は、緑の瞳を泳がせながら身体の動きを止めた。
その態度は見覚えがあった、野性動物と暮らしてきた悟空の経験では人間のものではなかったが、まるで動物のそれと同じだ。

「…、まさか、怖ぇんか……?」
「う、…っ、ぅ……」
「なあ、オレが、怖ぇんか……?」

突然、興奮状態にあったはずの心が激しい罪悪感に染まる。
――なんで。
なんで、こんなことを。

ふう、と身体全体から力が抜けるのを感じる。
悟空を包んでいた美しい黄金の光が消え、髪の毛は静かに黒に戻り、緑の瞳が、ベジータと同じ漆黒の瞳に戻る。

「ベジータ……」

超サイヤ人ではなくなった悟空は泣きそうに顔を歪めると、ぎゅう、と繋がったままの小柄な身体を抱き締めた。
されるがままの彼の唇に、自分のそれを重ねる。
それでもほとんど反応が返って来ない。

「…わりい…、悪かった、ベジータ……」
「………」
「まさか、プライド高ぇおめぇが、って思ったけど、」

分け合う体温に、少しずつベジータの震えが収まるのを感じながら、悟空は何度もキスをする。

「怖くて抵抗できなかったんだな、わりい……」
「う……」

ベジータは何事か喋ろうと濡れて光る唇を動かそうとしたが、うまく舌が動かないのか、物言いたげに悟空を見つめる。
汗の浮いた額から髪の毛をゆっくりと撫でてやりながら、片手で腰を抱えなおす。

「……でも、わりぃベジータ…オラ、途中で止めらんねぇ」
「うぁ…あ!」

悟空は抜き差しを再開して、そっとベジータの陰茎を握る。
腰をストロークさせながらゆっくりその手を上下させるだけで、ベジータは首を横に振ってめちゃくちゃに声をあげた。

「あ…あっ、あっ!や、やだっやぁ、ひあぁあっ!」

その両手が、悟空の広い背に縋るように回された。
ぎりぎりと爪が背中の皮膚に食い込んで、悟空は小さく顔を歪める。

「…っ、気持ちい、か…?」
「や、あ…ああっ!っあん、やめ、も、やぁあ…かかぁっ」

開きっぱなしの小さな唇からは、涎が垂れている。
焦点の合わない瞳には自分が映っていて、繋がっている陰茎から腰全体を痺れるように包む直接的な快楽に揺れる脳は哀しく気分が重くなった。
だんだん早く強く握り込んで先端に親指の爪を突き刺すようにぐりぐりと力を込める。
同時に何度も何度も引いては奥まで強く突き刺し、ぐちょぐちょの肉と肉を擦り合わせる。
耐えられないというように腰を振りまくり声を上げるベジータは、一気に絶頂を迎えた。

「イ、あ!あっ、だめ、ぁ…っ…、イクぅぅ…ッ!!」

ビクン、と大袈裟なまでに体を震わせて、悟空の手を濡らしながら射精する。
びゅくびゅくと腹に白いものを飛び散らせて、快楽に溶けきった涎も涙もぐちゃぐちゃの顔。
限界まで反らした腰は浮いたままでビクビク震え、波打つ白い腹とともに強く収縮する体内に、悟空も堪えきれず放出する。

「…っく……」

熱い液体を中にぶちまけて、萎えていくとともに、悟空はゆっくりと溜息をつく。

「ふう…」

ずるり、とベジータの陰部から抜いてみると、血混じりの白いものが絡み付いてとろりと出てくる。
はあ、はあ、と肩で息をするベジータは、その様子をぼんやりと見つめているようだ。
後悔の痕。
確かに自分は超化したとき感情が昂って、抑えがきかないのだ。
普段、影をひそめている本能が。

しかし、お陰でようやく分かったことがある。

ベジータが、ほしかったんだと。
この冷たい心の、人でなしを。
超サイヤ人ではなく、孫悟空(カカロット)その人として見てもらえないことにどうしようもない憤りを感じていたのだと。

「わりい、…ベジータ…、オラ………」

すると、組み敷かれた体勢のままベジータが小さく微笑む。

「バカだな、貴様は…」
「?」
「怖いというだけで、誰にでも簡単にこんなことやらせてたまるか」

ベジータは、ふん、と首だけでそっぽを向く。

「…え」
「ほんとうに、莫迦なんだな、貴様は」

その言葉が、なぜか柔らかくさえ聞こえる、否、それは気のせいじゃない。
悟空はにっこりと笑う。

「そっか…。」


いつの間に、こんなに好きになっていたのかと。




end.






素直になれないツンデレSだけど結構Mな王子様と
二重人格ぎみで本能的にSな暗め悟空さ
悟空さは、普段人を好きになったりするような人じゃないので、超サイヤ人のときだけ知能が上がってそれを理解できる、しかし興奮状態すぎてそれが最悪の形で現れる。
二人とも別人乙\(^o^)/

今回はすべて携帯で書きました
じっくり書けたかなと思います


100917