『なあ、オラ、おめぇのこと、好きだ。

こうやって、おめえと戦って、毎日平和に過ごせるのが一番だなぁ。』


『フン、やはりお前は考えが甘すぎるな…

だが、悪くはない。』


目の前の惨劇を、ベジータは吹き飛ばされ叩きつけられた岩盤に体を埋め込んだまま、焦点の合いにくい目でぼんやりと見つめていた。
金色の戦士、超サイヤ人となった悟空は、あのブロリー相手にかなり健闘した。
スピードでは悟空が押しているかに見えたが、ブロリーのパワーはやはり何人にも超えられない恐怖そのものだった。
戦えば戦うほど興奮状態に陥るブロリーが潜在的な力を解放する度に、徐々に悟空が押され始めた。

悟空の背後、はるか先に居た下級戦士が、悟空が避けたブロリーの気弾をまともに食らって地面に堕ちていく。

「お前ら何やってんだ、…さっさと逃げろッ!!巻き添え食らって死ぬぞっ!!」
「よそ見するなよ…カカロットォォ…!」
「くっ……!」

一瞬後ろを振り返った悟空の顔を、ブロリーが大きな拳で殴り飛ばす。
さきほどベジータの渾身のパンチでまったくダメージを受けなかった悟空が為すすべもなく吹き飛ばされ、岩の破片を散らせながら突っ込んだ。
ブロリーは何を考えたかニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。
直後、目にも止まらぬ速さで動いたブロリーは、未だ空中に残っていた下級戦士の首根っこを捕まえると、いとも簡単にバキバキと首の骨を折った。

「…あ……?」
「ぐえ……」

断末魔さえ聞こえない。
空に浮かんでいた侵略者たちはあっというまに死骸に成り果てる。
ああ、もう誰にも止められない。
ベジータは動く気力も体力もなく、ただそれを目で追うだけだった。

「ブ……ブロリー…ッ…!」

瓦礫の中から、傷を負いながら立ち上がった悟空が奥歯を噛み締めている。

「おめぇは…!オレを殺しに、来たんだろっ…!そいつらは関係なかったはずだ!!」
「…カカロット、お前が気を散らすからだ…」
「……おめぇ…ッ!」

強大な力を持った人間兵器は、戦闘欲の塊のような男だった。否、それ以外が欠如して人格が破綻している。
ブロリーはやはり悟空を超えている。二人の姿を遠くから本部に送信している人造人間の言う通りだった。

なあカカロット、お前は死ぬのか。

ベジータは、だんだん傷を負っていく伝説の戦士を見ながら、唇を噛む。

なあカカロット、お前が死んだら、俺はまた一人ぼっちなのか。

ブロリーは楽しそうだった。これほどまでに歯応えのある相手は初めてだったのだろう。
遂にそのパワーが最大に達したとき、見てはいけないものを見た気がした。

「うおおおお!!!」

ざわり、とブロリーの髪も金色に染まる。
ただでさえ分厚い筋肉が肥厚し、体全体が大きくなったようにさえ見える。
目は白目しか見えない、体全体を覆う気は悟空のそれと酷似していた。

(まさか……あいつも超サイヤ人になれるのか……!)

同じ超サイヤ人なのに、どうしてこんなに悟空と違うのだろう。ベジータは超サイヤ人になった悟空の姿を見て思わず体が震えるほど感動したというのに。

「カカロットォ…楽しかったぞ…!だがもう終わりだ」
「…ッ、まだパワーアップできたのか…ッ!!」

もともと下級戦士の端くれでしかなかった悟空よりも、最初から兵器のような強さを持っていたブロリーが超化すれば強いのは当たり前だった。
ブロリーが地面に向かって悟空を叩きつける。
あんなに図体がでかいのに、速ささえ悟空を超えている。

無理だ。
万にひとつも勝ち目はない。

「ぐ、あ…ぁあッ…!!」

地面が割れるほど殴られ、血を吐く悟空の気が目に見えて減っていく。
ブロリーは、このまま悟空を殺したら星を破壊してから去るだろう。
どのみち、自分も、この星も、このまま死んでいくのだ。

「く…、カカロット……」

ぎしぎしと軋む体をなんとか動かして、ベジータは岩肌から体を引き剥がす。
ブロリーは今悟空を殴るのに集中している。
一発くらい、当ててやることは、できるかもしれない。
ほとんど体に残っていない気を限界まで手に集めていく。

「死ぬなよっ…カカロット!!ギャリック砲ーっ!!」

目映い蒼い光線は、ブロリーに直撃した。
もうもうと上がる煙に、二人の姿が隠される。

(やった…か?)

悟空を殴る音は聞こえない。

「まだいたのか……、クズが……」

ゾクリと体が凍りついた。
煙が薄れていくと、白目しか見えないような化け物が確かにこちらを捉えている。
終わった。

瞬間、キイイと黄色い光が目の前を通過した。
遅れて、それが通ったすべての地面に深い地割れが起きて地面が崩れていく。
その攻撃に吹き飛ばされ、ベジータはもう指一本も動かせないまま地面に落ちた。
遠くで、金髪の女である18号と黒髪の男である17号が、素早く宇宙船に乗り込む姿が見える。
この小さな星は、ブロリーの今の攻撃で簡単に中枢を破壊されてしまった。
もう暫くすれば、爆発して消えてなくなる――それを見越して、任務完了と判断したのだろう。
ツフル人と、悟空の殲滅。
確かに、両方を満たしている。

「…何をした…っ、ブロリー!」
「んん?」
「この星は…!」
「もう終わりだな…。ゴミ虫がいたから掃除したんだ」
「…ベジータのことかっ…!」

激昂するも、もはや悟空にはほとんど力が残されていなかった。
ツフル人ごと、もう少しでこの星は消える。
(まだ微かに、ベジータの気がある……!)
悟空は右手の人差し指と中指を額に当てた。
ヤードラット人だけが使える秘伝の技――瞬間移動。その存在は、ヤードラット人しか知らない。
瞬間、悟空の姿はブロリーの前からかき消えた。

「なにぃ…?」

ブロリーは悔しそうに口許を歪ませあたりを見回している。

傷だらけの体で、目を閉じ地面に仰向けに倒れていたベジータの真横に、悟空はその姿を現していた。
ほとんど意識を飛ばしていたベジータが、その気に気がついてうっすらと目を開ける。

「カカ…ロット……?」
「ベジータ……」

悟空は屈みこみ、そっとその小さな体を起こす。
傷で熱を持ったお互いの体は、暖かかった。

「さっきは、助かったぜ…。ありがとな。」
「……フン。」
「この星は…もうだめだ」
「そんなことは知ってる」
「なぁ、ベジータ…」

金色に包まれたままの悟空は、哀しみを押し隠すように微笑んだ。

「そこかァカカロットオオオ!!!」

二人の背後に、猛然と怪物が襲いかかる。
悟空もベジータも、もはやそれを振り返ることもしなかった。

「一緒に、逃げっか…。」

振り上げられたブロリーの拳が、一気に星をまっぷたつにするほどの力で地面に叩きつけられた。






「星ごと爆発、ブロリー・カカロット、ベジータ、その他あの星にいた人間はすべて殲滅完了だ。」

宇宙船から本部に向けた通信は、人造人間17号の冷たい声だった。

その後、悟空たちの行方を知る者はいなかった。
否、死んだものとして、誰一人探そうとはしなかったのだ。

「ただいま、父ちゃん、母ちゃん……」

気を失ったベジータを抱いた悟空が、瞬間移動で帰還できるなど、誰一人知らなかったのだから。






end.







後日談書こうか迷ってます。話としてはこういう流れにしたかったんだけど、カカベジ的にいまいち絡みが足りない気がするので…。
もし、後日談読みたい!という方がいたら書こうかなと思ってます。拍手からその旨を伝えていただければ、ちょっとがんばって書きます。



にしても…
あ、あれ…?おかしいな…
もっと最後カカベジな予定だったんだけどおかしいな……
サイヤ人厄介すぎました。
勝てるはずないのに向かっていくんだもん悟空。
戦線離脱させるのは決まっていたんですが、いつまでも逃げてくれないから。
ベジータも弱すぎて使えないし、ブロリー強すぎたし…
キャラ出しすぎてどんどん手に負えなくなりました\(^o^)/

長々とお付き合いいただきありがとうございました。
最後がこんなオチですみません。
一気に書かないと、私の飽きっぽい性分としては書き終わらないだろうなと思ったので、わき目も振らず書きました。
毎日書いて書いて書きまくりました。
毎日見てくださったり拍手をくれる方々がいたからがんばれたと思ってます。ありがとうございます。
ヘボサイトですがこれからもどうぞよろしくお願いします!!


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