まうす。様・ふぉれ様・ZEN次郎様主催の「カカベジ強化月間」様へ投稿。
クリノキ
悟空はパオズ山育ちだという。
パオズ山と言われても、もともと地球育ちではないベジータは、街だろうが山だろうが「地球」というひとくくりにしか見えなかった。野性児扱いされている悟空が周囲の人間とどう違うのかなんて詳しく考えたことはない。
眼前に迫る悟空の鋭い突きをかわして、空いた懐に特大の気弾をぶち込んでやる。
避けきれず吹き飛ばされたオレンジ色の胴着を同じスピードで追い、気弾を撃って追撃する。
しかし、相手はこの程度でやられてしまうようなタマではない、必ず裏をかいて攻撃してくる。どう出るか、と緊張してその動きに目をこらしたそのとき、奴の右手の指が額に当てられていることに気づいた。
まずい、とベジータが振り返るのは一瞬遅かった。背後に瞬間移動してきた悟空から思いきり背中を殴られ、呼吸が止まる。
「く…ッ!」
今日の手合せも、相変わらず充実していた。一人で修業するのも必要だが、やはり実戦は手ごたえが違う。
『今日は西の空が明るいからきっと天気いいぞ』なんて言っていた通り、空は雲と青色が斑模様になっているものの、太陽の差し込む良い天気だった。
――はずだった。
「あ…雨かぁ……?」
試合の最中、何かを感じ取ったように突然空を見上げて、彼は今の今まで戦っていたベジータを放って一気に空へ急上昇した。前触れのない試合中断に、ベジータの眉間に皺が寄った。
なんだか、天気の方に悟空を持っていかれたみたいで腹が立つ。
(ああ、つまりこういうことか、山育ちというのは。)
何となくそう理解しながら、それでも理解と許容はまったく性質の違うものであった。
「カカロット貴様…!!俺との手合せはどうした!!」
追いかけるように空へ舞い上がってそう叫ぶと、すっかり自然現象に気を取られていた彼は驚いたようにこちらを見た。
「ああ、わりいわりい。何か、多分すぐ雨降っと思うんだ。雨宿りしようぜ」
「雨宿りだと!?そんな生温いことしてられるかっ!!」
「い、いや、だってこれから夕立来っから……あ、ほら、早くベジータ!!」
そのとき、確かにポツリ、ポツリと大粒の雫が、いつのまにか暗くなっていた空から落ちてベジータの腕に当たっていた。
確かにこれは雨だ。西の空が明るいからどうのこうのと言っていたのはどこの誰だったのか。
ベジータはイライラしながら、「俺はそんなことするつもりはない」、ともう一度主張しようとしたのだが、その直前に腕を掴まれて強制的に背中から急降下させられてしまってはそんなことを喚く余裕はなかった。
「な、何しやがるカカロット!!!」
「……」
身体を反転させようにも、彼に思いきり腕を掴まれていてはうまくできない。仕方なくまずは顔だけを進行方向に向けると、猛スピードで迫る地面に舌うちした。これでは、離せと言っている暇もない。
腕を掴まれたまま、ベジータは悟空とともに草の生えた野に降り立ち、大きな木の陰に入り込んだ。
直後、ざああと音がするほど大粒の雨が降りだしてベジータは目を見張る。
「ちょっとしてすぐ止んだら…続きやろうぜ、ベジータ」
な、と笑って言われてしまっては、ベジータには返す言葉もない。そんなにすぐに止むのかと聞きたかったが、こいつが「すぐに止む」というのならきっとそうなのだろうと思った。
フンとそっぽを向いて、それからそういえばまだ腕を離していなかったことに気づいて、慌てて振り払う。
しかし彼の方はそれを気にすることなく、「濡れねぇですんで良かったァ」などと呟きながらマイペースに大きな幹へ背中を預け座り込んだ。
それを尻目に腕組みをして微動だにしないベジータを、彼は純粋な瞳で不思議そうに見上げてくる。
「ベジータ、おめえも座れよ」
「フン。なぜ貴様の隣になど座らなければならん」
「まぁまぁ、いいじゃねえか」
「!!」
ぐい、と手を握られ、下に引っ張られてベジータは忌々しそうに悟空を睨みつける。
手袋越しだというのに、悟空の手のひらの温度とか硬さとかが伝わってくるような気がして、なんだか妙に恥ずかしかった。
何で、手なんか繋ぐんだこんなときに。
「な?さすがに、そんなすぐにはやまねぇから。座れって」
こちらの都合などお構いなしである。多分ベジータが何を言っても聞く耳を持たないだろうことは容易に想像がついたので、ベジータは仕方なく隣に座ってやる。
別に、隣に座りたかったんじゃなく、奴が強引にそこに座らせただけだ。
手だってまだ握ったままで、こいつは一体どういうつもりなんだ。
「ちょっと、この栗の木、ちっさいんだよな。まだ若ぇんだなぁ」
「栗の木?」
「ああ、こいつは栗の木だ。秋になったら栗がなっぞ!」
「……」
「でもちょっと、思ったよりちっさかったから…案外狭ぇんだよなぁ」
言いながら、悟空は少しベジータ側に寄ってきた。肩と肩が触れて、ベジータは思わず顔に血がのぼる。
「そっち、雨当たんねぇ?でぇじょうぶか?」
「あっ、あたらん!」
「ふぅん、そっか、よかった。こっちは葉っぱ薄かったんかな…?」
つないだままの手とか。
触れ合ってる肩とか。
真横から聞こえる声とか。
ベジータはバクバクと心臓がうるさくて、さきほどから雨が当たるとか当たらないとか、それどころではなかった。
何でカカロットはこんなに平気そうなんだ。
「なあベジータ」
すぐ耳元で聞こえた声に、そんなところで喋るなと文句を言おうとした唇を、柔らかい何かで塞がれた。
それがカカロットの口であると気づいたそのときには、怒っているのか嬉しいのかムカつくのか恥ずかしいのか何なのか自分でもよく分からなくなって、石のように固まってしまう。
「たまには、雨宿りもいいなぁ!」
始末に負えないこいつを、もう誰かなんとかしてくれ。
END.
投稿作品でした。
なんかほのぼのしたやつ。
100815
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