「それにしても、おまえには本当に驚いた。」

悟空は、ラディッツにいらなくなった書類をシュレッダーにかけるだけの簡単な雑用の仕事を教えてもらっていた。
実の兄である彼は、見た目通りあまり戦闘力が高い方ではない。
スカウターという機械で戦う力――戦闘力というものを数値として測ることができるということをこの前ラディッツに教わったばかりだ。
しかし、悟空は以前から他人の気を読んで生活していたため、特にそんなものが必要とは思えなかった。

「だって、あのベジータ様といっつも手合せしてもらってんだろ?信じらんねえ」
「楽しんだぞ、ベジータと闘うんは」
「だから様をつけろ様を」
「ん?だって、あいつもオラに様なんてつけねえし…」
「ああもう、本っ当に馬鹿なんだなお前!!」

そこまでいくと逆にすげえよ。と言われ、何が凄いのだか分からない悟空は首を傾げた。
ベジータと力いっぱい戦えば「戦いたい」という欲を持て余すこともなかったし、毎日快眠で食欲もいつもより多いくらい、確かにSAIYAという会社はサイヤ人には合っているのかもしれない。と悟空は思い始めていた。ただ、最近はベジータが忙しいらしくあまり逢えていない。

「この書類は、もう使い終わったとはいえクライアントの個人情報だからな。全部絶対なくさないようにシュレッダーにかけろ。それだけでいい」
「ふうん。退屈な仕事だなあ」
「文句言うなよお前!まだ入ってそんなに経ってないんだし、ここで教育受けて無いお前に仕事があるだけマシと思えよ!!」

ラディッツは、あまり戦闘力が強くない分、頭まで筋肉のような奴らとは違って多少頭が回るらしかった。
情報管理局を任されているラディッツも、実はそれなりの地位なのではないかと思えるのだが、力が全てであるSAIYAにおいて情報管理局の地位は最下位にも等しかった。

「あーあ、オラ戦ってるほうが好きだ」
「そんなの見てりゃ分かるよ。お前は見るからに頭悪そうだ。つーかバーダックにそっくりだ」
「だって、こんな紙っきれ見ててもつまんねえ」
「面白い面白くないの問題じゃねぇんだから、とりあえずこれだけはちゃんとやってくれよお願いだから」

ラディッツが、出来の悪い弟の背中をぽんぽんと叩いたとき、背後から聞きなれない声が悟空の別名を呼んだ。
悟空とラディッツが、同時に後ろを振り返る。

「お前がカカロットか……?できそこないの落ちこぼれ野郎」

それは、まるで悟空と同じ顔と髪型をした、悟空よりも少し背の高い色黒の男だった。
一瞬見間違えたのかと悟空が目をぱちくりしていると、相手は馬鹿にしたように鼻で笑う。

「お前にはその紙きれを始末するだけの仕事が似合いだ。ベジータ様に少し気に入られてるからって調子乗るんじゃねえ」
「…誰だ、おめえ」
「俺はターレス……いずれ必ず幹部まで登り詰めてやるぜ。お前とは違ってな」
「……ターレス……か。オラは孫悟空だ。」
「フン、威勢だけはいいじゃねえか。」

ここへ来てから、このような態度の男ばかりだったので悟空はそろそろ慣れ始めていた。
どうやら、サイヤ人というのはこういう奴が多いらしい。野心に満ち、少々過剰なほど自信に溢れた、戦闘民族。

「俺にはシンセイジュの実がある。お前みたいに下級戦士で終わるつもりはない…」
「そっか、おめえも下級戦士か。ここには幹部ってのは何人いるんだ?」
「……!…うるせえ。俺がお前に説明してやる義理はねえ。そこの使えねえサイヤ人にでも聞いたらどうだ?」

ずっと何も言わず黙っていたラディッツを見下して嘲笑し、ターレスはゆっくりと歩いていく。下級戦士だと言われたことが少し癇に障ったのか、来た時より機嫌が悪そうだった。

「…ヤな奴だなあ」

その背中を見送りながら悟空がぼやくと、ラディッツは思いのほか真剣な顔で、「おいカカロット」と肩を叩いた。

「あいつはダメだ。関わるなよ。やべえことに関わってるからな。巻き込まれるぞ」
「……そうなんか」
「シンセイジュってのは禁止されてる麻薬だ。何言われても命が惜しかったら絶対あいつについて行くなよ、わかったな」
「………ああ……」

ラディッツは情報管理長をしているだけあって、すべてのサイヤ人のことを把握しているらしい。
悟空はその言葉にうなずきながら、なんだか無性に、ベジータに逢いたくなった。
何も考えずに拳を交えたい。
面倒な事は何もかも忘れて。



*****


ああ、なんでこんなにムシャクシャしやがる。
ベジータは、次に行う任務の作戦を考えていたはずだったのだが、からだが疼いて仕方がなかった。
手に持っていたグラスを力一杯握りしめると、ガシャンと音を立てて割れた。手に刺さった破片もそのままに、床に散った粉々のガラスを見つめる。

『じゃあ、こういうんもしたことねぇんか?』

抱かれたときに触れたその太い腕。
顔を押し付けた分厚い胸。
身体中を包み込む体温。

『おめぇは、可哀想だ』

耳元で囁き生々しく蘇るその低い声。
何故だ、なんでこんなに心臓が痛い。

(いったい…どうなっていやがるんだ……!)

あの優しい笑顔が。
無垢な黒い瞳が。


ああなんであんなバカな下級戦士に、こんなに逢いたくてたまらないんだ。




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同時に逢いたいと願う二人

100816


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