長編パラレル。設定めちゃくちゃですので、許せる方のみ↓
遺言
就職することに決まったのはSAIYAという会社だった。少し遠いそこへ、悟空は野を越え山を越え、青い空を滑空している最中だ。
写真と名前年齢性別以外ほとんど書くことがない真っ白な履歴書を送りつけ、面接という名の簡単な試合をして、悟空は難なく就職試験をクリアした。ここには以前実の父親であるバーダックが下級戦士として勤めていたことがあり、悟空が18歳になる少し前に会社の方から接触があった。
どこから調べたのか、悟空を拾って育ててくれていたヤードラット人の住処へやってきて、ぜひ就職試験を受けていただきたいという話をされた。自分と同じように尻から尻尾が生えていたが何故かそれをしっかりと腰に巻きつけた、つるつる頭の大男と、やたら髪の毛が多く腰くらいまであるあまり強くなさそうな男の二人であった。顔に似合わず二人はずいぶん友好的な笑顔を貼りつけ、SAIYAはサイヤ人にとって最も幸せになれる会社です、そこで貴方が働くことが亡き父の供養にもなるのではとまで言われた。何だか父親のことを引き合いに出すところに少し腹が立ったが、他に仕事の目処もなかったので受けることにしたのだ。
働くことの苦手なサイヤ人という種族のほとんどは、普通は7歳を迎えるころにこのSAIYAという会社の教育施設に放り込まれ、そこで戦いの技術と精神を叩き込まれ、一生を戦いの中で過ごすという。所詮戦闘民族は戦いの中でしか生きられないという運命が浮き彫りにされている。
悟空は、7歳になる前に父親を亡くして、別な種族の家で育っていたため、その教育施設に入れられることはなくそのままのびのびと育った。ヤードラット人は優しく暖かい家族で、悟空は種族が違っても心根の優しい青年に育っていた。
就職が決まって早々に悟空に与えられた役職は当然のように父親と同じ下級戦士であった。
結局どんな会社であるのかはよく分からない、ただサイヤ人のほとんどがそこに居るということだけは分かっていた。
父親はSAIYAで与えられた任務の中で殺した相手の仲間に恨まれ、家に居るところを襲撃されて死んだ。当時5歳だった悟空は、最期まで自分を隠し守ってくれたバーダックが言い遺した言葉が今でも頭に残っている。
「お前はサイヤ人だ。サイヤ人の誇りを忘れるな」
その後はずっと拾われたヤードラット人の家族が住む集落の中で育ってきた悟空には、「サイヤ人の誇り」なるものがどんなものか全く想像がつかなかったが、サイヤ人がたくさん働いているというSAIYAに行けば少しは父の遺言の意味が分かるのかもしれない、と思ったのも、SAIYAへ就職することにした理由の一つであった。
もらったのに全然目を通していなかったパンフレットを、会社へ行く道すがらようやく開いてみる。
「SAIYAは、サイヤ人の教育からバックアップし、戦闘民族として自己実現できる仕事を提供していきます。」
なんのことだろう。その隣には、髪の逆立った髭面の男の写真が大きく載っていた。
ベジータ王・代表取締役と書かれている。
なんとなくパラパラと中身を見ても、サイヤ人がいるということ以外あまり詳しいことは分からなかった。
「まぁ、いっかぁ…。これで、育ててくれた父ちゃんや母ちゃんに恩返しもできたし」
悟空が就職するときに何故だか多額の金が家に振り込まれたらしい。それでも、母や父は「こんな金なんかいらないから行かないでくれ悟空」と泣いて頼んできたのだが、バーダックの言葉を知るためにもSAIYAへ行くと決めた悟空は揺らがなかった。
SAIYAは全寮制で、会社へ行くと自動的に必要なものは給付されるという。
未知の世界に飛び込むことに、悟空は少しも怖気づいてはいなかった。むしろ、どんなところなのかと期待に胸が膨らんでいた。
「今までサイヤ人に会ったことねえし、楽しみだな!」
きらきらと照り返す太陽が、悟空の旅立ちを応援しているかのようだった。
next
SAIYAとか怪しげな名前。
長編に挑戦。
100814
|