暗め。うっすら流血表現あり注意。












本当は、お前の姿を見つけたそのときから、気づいていたんだ。




月蝕




ベジータは、風呂上がりの体をバスタオルで拭きながら、鏡に映る裸身を横目に眺める。
あまり背が伸びなかったから、頭身が低く骨格が小さい。いくら修行してもこの体格は矯正のしようがない。
自分一人だけをこうして見ていると、筋肉はバランスよくついて無駄のない身体に見えてくるのだが、隣にあの男が来た瞬間にその幻想は見事に崩れ去る。
すらりとした長身、広い肩幅に長い脚。自分と違って腰回りも細すぎず、その立ち姿は完璧といえるほど。

(下級戦士のくせに)
(あいつは、下級戦士のくせに)

揺らめく金髪。
その体から迸る黄金のオーラは、生温い正義だけではない、見た者を圧倒する極限の力。

ベジータはうっすらと湿ったバスタオルを頭からかけて視界を遮った。
そうするとますます、瞼の裏に浮かぶのはあの翡翠の瞳だ。射るように睨みつけるその視線に肌が粟立つ。
お前が。
お前の存在が。

「カカロット」

ごく小さな声でその名前を唇に乗せる。
用意してあった新しい黒の下着に足を通し、その上にバスローブを着る。
別にバスローブなんていつも着るわけじゃない。
簡単に脱がせられて手間が省けるって、あいつが喜ぶから。

裸足でぺたぺたとバスルームを出て、ベジータは薄暗い台所に向かった。電気をつけるのも面倒で、そのまま冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、半分ほど一気に飲み干す。

「おい、いつまで待たせんだ?」

不意に、真後ろから冷たい声が落ちてきた。
はっとして振り返ると、いままで頭の中で何度も思い描いたのと同じ金髪のサイヤ人がそこに佇んでいた。冷蔵庫のオレンジの光に、カカロットの翡翠の瞳が不気味に輝いて見えた。

「ちゃーんと、バスローブ着てくれたんだな。」

薄い唇を歪めて、にいっと笑った彼の指先がバスローブの襟をつつく。
その爪がちくりと首に刺さって、ベジータはびくりと肩をすくめた。

「着ろと言ったのはお前だ」
「ああ、オレだ。オレの言うことは何でもよく聞くもんな、お前は」
「勘違いはするなよ」
「どういう勘違い?」

ベジータは答えなかった。
否、答えられないというのが本当だったが、パシッとカカロットの腕を払うと、背を向けて寝室の方へ足を向け、歩き出してしまう。

「ベジータぁ」

その瞬間、前につんのめりそうになるほどの衝撃でベジータはたたらを踏んだ。
太い腕で後ろから拘束してきた下級戦士ながら伝説の超サイヤ人は、するりと頬を寄せてきた。
一気に体を包む太陽の匂い。
その暖かい体温に、突然ベジータの心臓が煩く拍動する。
ドキン、ドキン、ドキン、

「なに黙ってんだ。つまんねぇ」
「…うるさい」
「オレは力づくでヤんのが好きって言ったよな?」
「うるさい、黙れ、黙れ」

カカロットは太陽の化身、俺は月の化身。
そうだったんだと考えれば、なにもかもに説明がつくような気がした。
初めて会ったそのときから、俺は多分この男の輝きに取り込まれていた。その暖かい光の虜だった。

だって、月は太陽がなければ輝けないのだから、当然のことなのだ。

「ここはだめだ、背中が痛くなるからいやだ」
「おめぇの意見なんて聞いてねぇ」
「…ッこの下級戦士が…!」

わざと緩く拘束しているカカロットの腕を振り払って、キッと睨み付ける。そうすると彼は満足そうに、それでいいと言わんばかりに微笑んでいる。

「やっぱりおめぇはそういう顔がいい」
「変態野郎…」

舌打ちをして、ベジータはまた廊下を歩き出す。

「おめぇに言われたくねえなあ」
「ベッドに行くまでも我慢できねぇのか、動物」
「ああ、でもよ」

ひたひたと斜め後ろを歩くカカロットが、ずいっと顔を近づけてきた。

「おめぇホントは嫌じゃねぇんだろ」
「…!…っ、そん、なわけあるか!」
「こないだ、廊下でやったら嬉しそうにダラダラえろい汁垂らしてオネダリしてくれたよな?」
「――!」

かあっ、と顔に血が集まって、ベジータは必死に顔を背けた。
にやにやしているのは見なくても分かる。
気づいたらそこは寝室のドアの前で、知らずごくりと唾を飲み込んだ。
がちゃり、と冷たいドアノブを押して、電気がつきっぱなしだった寝室に入る。
一緒に入ってきた金髪の男をゆっくりと見上げると、彼は翡翠の瞳で冷徹にこちらを見つめていた。
これから始まる宴を思うと、それだけで下腹部が重い熱を持つ。

「…カカロット」

だけど、太陽は月が一緒になくても、ずっと一人でも輝いている。
俺がいなくたって、お前は生きていけるんだろう。
お前を必要としているのは俺だけ、一方通行。
月蝕になれば、俺は地球にお前の光を奪われてしまう。
それでもお前は、別に俺のことを気にするでもないんだろう。

「カカロット」

甘えた声でもう一度名を呼び、ベジータは悟空の手を引っ張るとベッドに倒れ込みながらキスをしかける。ぎし、と二人分の体重にスプリングが軋む。
太陽がまっすぐこっちを向いてくれるのは、このときだけだと知っていた。
キスをして、舌を絡めて、身体を擦り寄せて、足をからみつかせる。
奴の武骨な手が簡単にバスローブを肌蹴させ、ぴんと立った小さな淡い色の乳首をこねくりまわす。

「…ぁ、」

思わず声が漏れると頬は羞恥に染まる。

「おめぇ、ほんとエロイ」

性的興奮にぎらつく瞳が、舐めるように全身を眺めている。
ゆっくりその端整な顔が近づいてくるので目を閉じると、その唇はベジータの唇ではなく肩口に落とされる。
堅い歯の感触。
甘噛みは一瞬だけだった。直後には身体が反射的に反り上がるほどの痛みに、肩肉がえぐりとられたような抵抗を感じてベジータは目を見開く。

「い…ッ!あ……!」

血の匂いが鼻をついた。くちゃくちゃと汚い音を立ててそれを噛みながら吸いとっている金色の頭をぼんやりとした視界に入れる。
太陽は、輝きで見えないところに黒点を隠し持っている。
骨まで咬み千切ろうとするかのごとくごりごりと噛まれ、ベジータは必死に押し返そうとしたがそれもかなわなかった。
彼の手がベジータの中心に手を伸ばし、ゆっくりと扱き始めたからだ。

「ひ…、っあ、あ」
「もっと鳴けよ、気持ちイイって言ってみろ」
「あ、あっあ、カカ…!」

お前をつなぎとめておくのに、俺はこんな方法でしかできないなんて。
もはや伝説の超サイヤ人になったお前に、俺はどう足掻いても届かない。

「ア、あう、んんっ、好き…好きだっ……!」

答えの返らないことを分かっていながら、同じ言葉を繰り返す、それはただ空気に溶けて消える。

「可愛いなあ、ベジータ」

たとえただの性欲処理道具にされたとしても、俺はお前から離れられない。

だって、俺はお前がいないと闇に溶けてなくなってしまうんだ。





end.





絶賛スランプ中のYunoです。更新を2週間ほどできず、うーうーしながら途中DQ4をクリアしてみたりと寄り道しながら
ようやく書き上がったと思ったら

こ れ か よ

救えないよほんと…





101230

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