ふたり





こまる。

じっと身体を固くして、唇の内側を噛んで言葉を探した。
なんかなかったかな。
なんか、なんでもいいから。
こいつが怒んないことで、何か別に差しさわりない感じのことで、なんかなかったかな。

だって、こうやって二人きりになるなんて初めてだ。
いや、戦ったことならあるけど、顔合わせてじっとしてるだけってのは初めてだ。

さっさとどっか行っちゃうかと思ったのに、なんでかこのまんま。
人間がとっくに酔いつぶれて、トイレに吐きに行ったりその辺で酔いつぶれたり、意識がない奴ばっかりゴロゴロしているものだから、結果的に二人きりというそんな感じ。
サイヤ人は酒に強いらしい。

悟空は、ぐいとジョッキを傾けた。
白い泡の浮いた黄金の液体をごくごくと飲み干す。
一気に飲む気なんてなかったのに、なんだか勢いで飲んでしまった。
それを隣から、ちらりと怪訝そうな視線が見詰めている。

気まずい。

「……。」

うん、こんなに近くで見る機会っていうのも初めてだったりする。
そんなに酔っぱらった風ではないけれど赤らんだ頬とか、広いおでこもちょっと赤くなっていたりして、よく見たらその大きな眼はいつもより眼光鋭くない。あまり喋らないから分かりにくいけど、ちょっとアルコールが回っているんだろうか。
ちょっと可愛いなとか。
赤い頬をぺちぺちしたいな、とか。
ていうか、チューしたいななんて、思ったことがバレただけでも殴り飛ばされるに決まってる。
ほんとはこんなの全部誤魔化せるような、どうでもいい話を思いつけば一番いいんだけど、頭ん中にぐるぐる思い浮かぶのは結局言えないようなことばかり。
そのうちに、彼も手に持っていたジョッキをその小さな口元に持って行って、ごくりと一口。

あ、今、喉仏が動いた。





なんでこいつはこんなにこっちを見てるんだ。

サイヤ人はアルコールごときではほとんど理性を失わないし、だいたいにして人間が飲むような濃度ではただの水に等しい。
最後には結局こいつと二人だけが残るであろうことは分かり切っていた。
分かり切っていたんだが。

「……。」

隣でただ、ずーっと、杯を重ねるだけ。
ブルマのようにくだらない話をふっかけてこないし、いつもヘラヘラ笑っているくせに今日に限って真顔だったりして。
よく見たら意外と顔が整っているんだとか、ピョンピョン跳ねた髪の毛は下級戦士のそれだけど金髪になりゃそれなりだとか、忌々しい身長差のお陰でちょっと頭身数えてみたくなったりとか。
ジョッキを持っているその手が、酒のせいかちょっと赤っぽく見えて、なんだか暖かそうだななんて。
そんな話を口に出せるはずなどない。

「……。」

気まずい。

なんだかこういうのは苦手だ。
もともと、そんなに他人と慣れ合うのは好きじゃないし、必要のないことまでベラベラと喋る気はない。
だけど、こいつとなら、下級戦士だけどサイヤ人だしちょっとくらい何か喋ってやってもいいか、なんて思ってやっているのに、いざとなると何を喋っていいのかなんて分からない。

あ、今一気に全部飲みやがった。

顔色一つ変わらない。
もしかしてもしかしなくても俺より強いかもしれない。いや、俺はちょっとこいつより早く飲み始めてたから、ただそれだけだけど。

口の周りについた泡をぺろりと舐めたその赤い舌を見て、ドキリと心臓が跳ねた。
ああ、ちょっと、キスしたらどうなるんだろうなんて思った頭は意外とアルコールに毒されていたんだと思う。

自分の口がなんだかもぞもぞするような気がして、別にもうこれ以上飲みたくもなかったけれど、ジョッキに口をつけてゴクリと一口飲んだ。





END.




「15分以内に3RTされたらカカベジで、お互いに意識しすぎて無言の状態が続いて気まずくなってるシーンを描きます。 」
というのをツイッターで六さんが診断メーカーから引っ張ってきて、
それにRTしつつ自分でもこのネタで書きたくなって書いてみたw
ひとことも喋ってないとこがいいかなと!
飲み会大嫌いなんだけど行ってきたあとで酔った勢いでした。



101127

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