バダタレです。








下級戦士に与えられる住処など、家畜のそれのようなものだった。
目に見えないほどゆっくりとした速度でその身を太らせていく、沈みかけた青い月を、褐色の肌をした下級戦士がひとつしかない窓からうっとりと見上げる。
8年に1度しか来ない満月は、来年に迫っていた。身体中に満ち溢れるブルーツ波が、凄まじい戦闘力となって神経を、筋肉を、骨格を、普段のそれとは全く違うものに変えていく快感。大猿になって暴れつくすあの何にも代えがたい時間を、もうすぐ――もうすぐ、味わうことができるのだ。
大猿になったのは7年も前だから、まだまだ子供の時代であった。今よりも随分背も低かったと思うし、なによりも成長途中なのだから戦闘力も普通の下級戦士のそれを下回っているくらいだった。
そんな時分でも、大猿になったときの快楽といったら、二度と忘れられない。
来年だ。来年になれば。

「……ん?」

ピピッ、と無機質な電子音が聞こえた。
ほとんど反射的に左目につけているスカウターのボタンを押すと、遠くからこちらに向かってくる物体の戦闘力が表示される。

「戦闘力10000…?」

凄まじいスピードで近づいてくる点から叩き出された数値に、ターレスは眉を寄せた。
弱い下級戦士なら、戦闘力2500程度もざらだ。フリーザの側近にでもならないと、万を超える戦闘力の奴はなかなかいない。
青白い月光に照らされた唇をぺろりと舐め、静かに口角を上げる。

バーダックか。

下級戦士ながら、生死の境を彷徨い雄々しく戦い続ける彼の戦闘力は、今の自分では到底敵わない。
(まあ、俺は…必ず、あの実を使って誰よりも強くなってみせるがな…)

ついに可視圏内に入ってきた、自分とよく似た髪型の、予想と違わぬ下級戦士を緩慢な仕草で見上げる。
月の輝きに隠れるように、すうと近づいてきた影はあっという間に目の前に降り立った。
左頬に十字傷のある、良く言えば野性味溢れる――簡単に言えばガサツで動物のような男だ。
開けろと窓をたたくので、ターレスは仕方なくといった風にその立てつけの悪い窓を開いた。
直後、まるで泥棒のようにそこから無理やり身体を捻じ込んで入ってくる。
なんで玄関側から入ってこないのか、まったく理解不能だ。
土足で家の中に入ってきたバーダックは、ニッと笑う。

「よぉ、クソレタス」

――こんな男が来るのを楽しみにしてるなんて、俺は相当どうかしてるんだな。
ターレスは眉毛ひとつ動かさないまま、腕組みをして溜息をつく。
それも、なるべく物憂げに、呆れたかのように。

「……やっぱりお前か」
「あ?」
「弱っちい戦闘力の奴が猛スピードでこっちに来てるから、もしかしてとは思ったが」

嘘。
だって、戦闘力10000近い奴なんて滅多にいない。
こんな下級戦士の集落に居る者の中で、一人だけ抜きんでているのはお前だけ。

「弱っちい?ハッ、誰と比べてンだか知らねぇが失礼な奴だな」
「本当のことを言ったまでだろう?……で?何の用だ」
「俺が来る時に他の用事で来たことあったか?」
「さあ。」
「冷てぇな、オイ」
「俺だって暇じゃねぇ。だいたいお前にばかり構っていたら、バカがうつりそうだ」

嘘。
ほんとは、お前が来てくれたら嬉しい。
でもこうして会いに来てくれるのを楽しみにしてるのは、お前にだけはどうしても気付かれたくない。

「ふぅん。じゃあ、とっととバカになっちまえよ」

一言だって素直に言っていないのに、バーダックは雄っぽくゾクリとするような笑みを浮かべて、ぐいっとターレスの顎を掴む。
もちろん、嫌なわけなんかない。
だって、本当はずっと待っていたんだから。

「ん、ふ………」

唇が重なって、お互いの舌をぬるぬると絡め合う。
バーダックの匂いが、バーダックの味が、体温が、鼓動が、もうそれだけで体は自由がきかなくなるほど溶けていく。
角度を変えながら、唾液の一滴も残さないほどその熱い舌を吸って、歯が時々ぶつかってコツンと鳴る。

「…っふ、ノリノリじゃねぇか」

楽しそうに、ターレスの唇の端の唾液を固い指先で拭った彼は口角を上げる。
ターレスは少し目を細めると、恨みがましげに睨みつけた。

「………お前はそういう言い方しかできないんだな。萎える。」
「じゃあ何て言えばいいんだ?ヤる気満々とか?」
「ボキャブラリーも最低らしいな」
「うるせぇ。頭使うのは得意じゃねぇんだ」
「身体の方もどうだか?」

絡みつくように体を近付け、掠れ気味の声でバーダックの耳元に唇を寄せる。
なんの用で来たかなんて、知らないわけがない。
だって、俺がそれを望んでいるんだから。

「いつもアンアン悦がってるくせによく言うぜ」
「だってその方が楽しいだろ?お互いに」
「わざと鳴いてやってる、みてぇな言い方だな」
「だったらどうする?」
「ウソであんな顔できんなら、すげぇよお前は」
「楽しくなきゃこんなことしたくねぇんだよ、俺は。」
「そのためにやってるって?成る程、俺とやんのは楽しいんだな」
「自惚れもいい加減にしたらどうだバーダック。こんなの、誰とやったって同じことだろ?」

嘘。
お前だから、ただの前後運動だってキモチイイし楽しい。
ターレスは、さも愛しげにその太い首に腕を回して、その頬にある十字傷をゆっくりと撫でる。
本当はこんなに好きなことは、自分だって認めたくないのだけど、せめてお前にだけ気づかれなければいい。
馬鹿だから、気づかないだろ?
なあ、バーダック。

来訪者は、十字傷を撫でる褐色の手を掴んで、小さく舌打ちをした。

「クソガキが。」

また芸もなく重ねられる唇に、ターレスはうっとりと瞼を閉じる。



もうすぐ、月が沈む。




END.



うひいいいやっちまったバダタレq^q^q^q^q^q^q^q^^q
ものすごく好きなんです実は。バダタレ。たまらんのです。
ずっと前からあっためてあったネタでしたww




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