風呂。それは日本人が心より愛する施設。一日の疲れを風呂に浸かり癒しつつ、親しい者同士裸の付き合いと背中を流し合い酒を交わし友好を深める。

ここ護廷十三隊でもそれは何ら変わりなく巨大な集団浴場は大抵何時も賑わっている。

隊長や副隊長ともなれば屋敷や隊舍の各部屋に風呂ぐらいついているけれどそこはそれ。男なもんで。
仕事から帰ってわさわざ家の風呂はいって飯を食うのはぶっちゃけ面倒臭い。
だったら帰宅前に一ッ風呂浴びて呑みに興じるほうがよっぽど楽しい。

そんな訳で十三番隊中、一番男ムサイ十一番隊では毎度毎度似たような面子で似たような光景が繰り広げられている。

ちなみに各隊舍近くには一件ずつ大浴場、つまりは銭湯みたいなものが存在する。隊長格はめったに大浴場には姿を現さないし、入りにくるといっても極限られた人だけだ。副隊長同士はと言うと仲が良いもの同士集まったりするので大概何時も同じような時間に同じような人が入りにきていたりする。

同じ湯に浸かるのどうも…と言う一般隊員はその方々が来る前にそそくさと退散していくか一般隊員ばかりが集まる方へ集まる寸法だ。

もちろんそれは一般隊員達だけの暗黙のルールでありまた一々公言されるような事でもなく、当然ながら副隊長の肩書きを持つ彼らは知る由も無い。







「っあー…」

「親父臭い声だすんじゃねぇよ」

いやいやいや
俺からしたら何で毎回テメェ等が居るんだよと突っ込んでやりたい。

「いやーやっぱ風呂は最高っすね!此処の風呂いっつも空いてるし!」

「ハイ、ハイ。そうだなー分かったからちゃんと肩まで浸かってろよ」

お前等は何だ!
どっかの親子連れか!
明らかに話流されてんじゃねぇかっ!そもそも毎回別の隊の風呂に来んな!!

片や頭にタオルを乗せいかにも親父な発言を多発する赤い髪の男。見た目は良いのにまったく勿体ねぇ野郎だ。

もう片方はいつもはツンツンと尖った塗れ羽の様な漆黒が水滴の重みでペタリと下がってる男。塗れ髪で男前割り増しを素でいけるある意味凄い奴。

女子隊員が観たらさぞや喜ぶ目の前の光景も俺には煩わしくて仕方ねぇ。

「先輩、上がったら何処行きます?」

「んー…今日は居酒屋気分」

「昨日肉食ったばっかですもんねぇ」

そう言ってバシャバシャと湯で遊ぶ二人。

…そうだな。食べ放題だーなんて行ってみたもののひたすらタン塩とカルビばっか焼きやがるからミノだの軟骨だのロースだのを頼んで肉で円を書いて中心で野菜を焼いてさぁ食うかっっつう頃にはなぜか俺の皿はタン塩とカルビが山盛りだったな。ビビンバも混ぜた記憶はあんのに食った記憶はねぇし生ビールも嫌っつうほど注文したのに何故か始終喉はカラカラだった…

毎回、毎回もう二度とテメェ等とは行かねぇと誓いを立てるのにどうして。

「じゃ、早く上がって行きましょう一角さん!」

「どうして俺が面子に入ってんだよ!?あぁっ?」

ばしゃんっと思いっきり桶にためていた湯を被って叫ぶ。ガラスと鏡がビリビリ言ってやがるが気にしない。そのままとりあえず二人から離れた位置で湯に浸かってみた。

「なっ…なんスか!?」

「なんスか!?じゃねぇよっ!俺は金輪際お前等二人とは飯なんて食わねぇっ!!」

いきなりの怒号に若干ビビル恋次を一喝する。

「唐突になんだよ」

「俺ん中では唐突じゃねぇから安心しろよ!とにかく!俺は行かねぇから!!二人で仲睦まじく行ってこい!!」

随分ひでぇ言い草ーなどとぬかす修兵に更に吠える。
「えー…なんでっスか」

「なんでじゃねぇよ!自分等の胸に手ぇ当てて考えてみやがれっ!!」

尻尾垂らした犬みてぇにしたってダメだ!飯や風呂ぐらい落ち着きてぇんだよ!

「じゃあ……」

「どうだー?恋次」

「全然分かんねぇ…」

…むかつく。馬鹿正直に胸に手ぇ当ててる恋次も煽る修兵もなんかもう本当に死んでしまえってレベルでむかつく。

「………」

大人になれ
とりあえず落ち着け俺
浮き立つ血管が切れる前に早々に此処を立ち去れ!

入ったばかりの湯が名残惜しいがこのままじゃ俺がヤバい。いろんな意味で。
自分自身に激しく声援を送りつつギリリと拳を固く握りザッバーと言う豪快な音を立てて立ち上がる

「ぶっ…は‥」

遠慮無く流れる湯も顔に湯の波を食らった恋次も気にしない。鼻に入ったらしくゲホゴホいってるが自業自得だざまぁみろ


内心で精一杯毒づいて大股で外へと通じる戸へ手を掛けようとした瞬間に違和感。

「……ひっつくなよ」

後ろから戸に挟まれるような形に押さえ込まれた。
戸にかかった俺の腕に滴る雫と足の間に割り込んでる足。

色々言うべきことあるのに出てきたのは先程の台詞。離せよとかでも良いけれどとりあえずひっつく事により触れてる物が気になって仕方がねぇ。もう既に意識は修兵の身体にいっちまってる証拠のようでこれまたムカつく。

「…つれない事言わねぇで仲良くしましょうよ先輩…」

甘く噛まれて吹き込まれる。それとも恋次抜きで部屋行きます?なんて…

「行くかボケェッ!!!」

「グ、ハ…ッ」


バキィッと良い音を立てて修兵はずるずるとその場に崩れ落ちた。そんな事は女にやれ!とばかりに顎に改心の一撃を食らわせて今度こそ戸に手を掛けて風呂を後にしピシャリと閉めてやった。

中から修ばっかズルイーだの舌打ちなど聞こえた気がしたが一切合財全部無視!何もかも無視だ無視!

もうオマエ等の存在すら無視してやる!


しかし一角は知らない。
明日こそは違う風呂場へと固く決心するが明日になればまたズルズルと赤と黒の後輩に引きずられ似たような光景を繰り広げることになるということを。


そんな光景が既に恒例という事を。


斯くして十一番隊の風呂が壊れるのはそう遠く無い未来なのかもしれない。






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