俺の中で忘れられない屈辱のこの日。始まりは何でもないただの休日だったはずだった…


長かった梅雨が明けてみれば待ってましたといわんばかりの太陽と抜けるくらいの青空に目が眩む。


久々に重なった休みに俺としてはデートに洒落込んだつもりだった。


「…暑ー…」


つもりだったんだけど俺の目の前には30℃と軽くこえる暑さに完全に逆上せ上がっている凌統が居る。

近所のでかい公園に夏企画のおばけ屋敷が出来たっつーんで来てみたものの辿り着く前にコイツが芝生に死んだ。

些か語弊があるがなんつーか全然デートって雰囲気じゃなくて見舞いにきた様な錯覚を覚える。何で扇いでやってんだ俺。

扇いでも扇いでも生暖かい風が凪いで、流れる汗が袖に染み込んで行く様が何とも気の毒に見える。

そう、袖に染み込んで行く様が…

「つーか、お前何でパーカーなんて着てるわけ?」

俺は黒のタンクトップにジーパン。比べてこいつは白の長袖パーカーに黒のハーパン。ハーパンっても足首ぐらいしか出ないやつ。

明らかにおかしくね?

「…別に、俺の勝手だっつの…」

呟くように吐き捨てられた。まぁ、そりゃそうかもしんねぇけどちょっとヒドイ言い草でねぇの?

疑問っつうか矛盾と理不尽を感じて仕方ねぇんだけど。

だって今にもドッロドロに溶けるんじゃねぇのってくらい逆上せてるくせに。

何か林檎病?ってくらい赤い顔してまで何で脱がねぇの?

「まぁ、いぃけどな‥ちょっと待ってな」


盛大に突っ込んでやりてぇ事は山程有るけど、とりあえず折角一緒に居るんだから怒らせるのは勿体ねぇと無理矢理言いたいことは飲み込んで。凌統は日陰に押し込んで冷たい物を買いに行ってやる俺。

何だかキャラじゃねぇなぁーとか自分で思う辺り情けねぇけど、とりあえずコーラとポカリを買ってダッシュで戻ってみりゃあ完璧グロッキー…


「あーぁぁ…大丈夫かよ、お前…」

「…うっさいよ」

その余りの打ちのめされました的姿に盛大に溜息吐いて缶を額に押し付けてやれば返ってきたのは礼ではなくて明らかに強がり。


まぁ、そんな所が可愛いんだけど



「あー…気持ちぃ…」

「おっさんかよ‥」

額に当ててた缶を伸ばされた手に素直に渡してやれば擦り寄ってふにゃりと笑う。

気持ち良さげに目を細める凌統を見て自分も笑う。
そしてずらした視線に入った物。


捲れた袖の下。


紅色に染まる肌………


赤い、肌…………?






「………こンの馬鹿野郎ッ!!!!」


「はぁ?なっ!?おい、甘寧!!?」




目に入った瞬間に力一杯怒鳴ってそのまま抱き上げて家路に驀地。そりゃあ目にも止まらぬ速さってのはこの事だと自慢できる猛スピード。

「離せっつぅの!!オイ!コラッ!!」

「うるせぇよっ!ギャーギャーぬかすな!!ってか、お前日焼けすんなら外出んなよ!!」


大の男で成人男子が走りながら怒鳴りあってりゃすげぇ注目浴びてかなりの恥だけど構ってらんねぇ。


「なっ…アンタが誘ったんだろ!?っつーか俺が日焼けしようがしまいがアンタにゃ関係ないっつの!!」

「っざけんなっ!!関係大有りだ馬鹿ッ!!!」


元々近所だったから到着だって速ぇもんだ。見慣れたアパートの階段をそのまま駆け上がって鍵開けて。
玄関先にやっと降ろしてやったら胸ぐら掴んで睨み付けてきやがるけど。

「アンタ、「お前が赤くなる理由なんて俺だけで十分なんだよっ!!!」

ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら至極真面目に力強く言い放った。

なんて格好良く言ってはみたもののその実、頭に血が上ってた俺はとんでもない内容を口走っていた。

「………」

叫んだ後にしばしの沈黙。
何かを言おうとしてた凌統は口を空けた儘ポカンとした顔。

次第に赤くなるのは俺の顔。


あぁ、やっちまった


何たる不覚

何たる失態



「あっはははは!!!」



腹を抱えて目の前で笑う凌統はすこぶる上機嫌だけれども


今後コイツにネタにされ続けるだろう俺は何でもないはずだったこの日を一生後悔する羽目になる…。





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