目を引いたのは派手すぎる赤い髪と珍妙な入れ墨。

最初に交わした言葉なんて当の昔に記憶の彼方。

ただ出会い頭にして強烈に刻まれた印象。

血のように赤い
燃えるように赤い
沸き立たせるような
赤の誘惑







「一角さん」

近すぎる呼び掛けに吹っ飛んでた意識を引き戻されれば目の前に広がる赤。

頬に掛かってくる色彩は上に覆いかぶさってるコイツの物で。

「…一角さん、何考えてんスか」

呟くでも囁くでもなく、吐き出すような問い掛けは静かに鼓膜を揺らして。現状にはひどく不釣り合い。

「…テメェの事…」

「‥そっスか…」

返した言葉は紛れもない事実だったのだけど、いかにも納得してねぇ様子でまた鼓膜を揺らす。

「……」

訪れた沈黙はやけに落ち着かねぇもので。黙りになっちまったコイツを見上げる形で表情を見ようとしても暗すぎる部屋と彩る赤に邪魔されてソレすら適わない。

「れ…んっ…ぅ」

黙りを続けるコイツにもどかしくなり口を開こうとすればそれは互いの口内に呑み込まれてしまって。

「…っ‥ふ…」

奪い尽くすような荒々しい口付けに荒ぶる呼吸と高鳴る心音。まるで自分の意志とは無関係。

歯の裏から上顎を撫でられ引っ込んでた舌を絡められて。口端から飲みきれない唾液が伝う頃に離れていった。

「…恋、次…」

名を呼ぶ事に意味なんて無くて、またしても意識はより近くなった赤に奪われる。

それはオマエ自身なのだけどオマエではなくてオマエを彩る赤。

そんな訳の分からねぇ感覚の中苦しくて仕方ねぇって顔して吐き出された二度目の問い掛け。


「‥どうやったら俺の物になってくれますか…」


見ているほうが痛くなるような表情で。耳を塞ぎたくなるようなその声で。



あぁ、俺はそんなにもお前を追い詰めていたのかと。

お前から受け流してきた言葉は余りにも御綺麗で俺には不釣り合いな物ばかりだったのに。

冗談だと勘違いだと笑っていた俺は残酷だったのか?


「…俺は‥」



俺自身だけの物だし、


俺の命は更木隊長の物だ。

それは俺の中の唯一の不変で変わらない事実。




けれどお前の赤すぎる赤に魅了されちまったのもまた事実で。



「…俺は‥」



口を開くものの言葉は喉元で引っ掛かったかのように出てきやしねぇで。まして何を言えば良いのかも回らねぇ頭じゃ浮かびもしねぇ。

ただ何か言わなくちゃなんねぇと、口を開いてもパクパクと馬鹿みてぇに動くだけ。

「……」

さっきとは逆に今度は俺が黙りになる番で痛い沈黙ばかりが身に注ぐ。

真っすぐに見てくる赤い目や色彩豊かに揺れるその髪に居心地の悪さを感じても逃げ場なんてありゃしない。


「…一角さん。笑えるぐらい貴方が…」



好きです…


と続いた言葉は躱す事も笑う事も出来ず。近付いてきた端正な顔も拒めない儘に再び口を塞がれた。





ゆらりゆらりと目の前で揺れる鮮烈の赤



惑わされたのは俺かお前か。
赤を纏うお前が仕組んだ罠なのか。



今となっては謀りしれねぇ事ばかり。



全てを狂わせた赤の誘惑







後は唯々堕ちるだけ



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