人恋し、物哀し
舞散る赤は暗闇染めて
長き遅き夜明けを
一人待ちわびる
草木も眠る…なんてフレーズが似合う真夜中。黒崎家の二階には夕刻頃から変わらずに明かりが灯っている。部屋の主は何をする訳でもなくただ何の変哲も無い窓の外を眺めていた。
「…はぁ‥」
無意識に零れるため息はこれで何度目か。目にちらつくのは窓のすぐ横にある木から落ちる紅い葉だけ。
(違うんだよなぁ…)
期待するのは、目に映れと望むものは綺麗な紅い葉などではなくてもっと別の物。思わず脳内で一人ごちればその瞬間どこかがぐにゃりと歪んだ感覚。
ひらり迷い込んだかの如く現れたのは漆黒の蝶。
「…久し振り、一護」
続く甘い声は嫌でも鼓膜を震わせて、待ちに待った来訪者の訪れを認識させた。
「久し振り、修兵‥」
二ヵ月前。まだ夏の日差しが照りつける暑い日。
「暫らく忙しくなるからこらんねぇわ」
言いにくそうに目を伏せて短い橙の毛を梳きながら告げた。
一護は仕事なのを理解していながら淋しいだなんて言える程我儘なガキでも淋しさを堪えられる程大人でも無くてただ涙を堪えて必死に造り笑顔で
「分かった」
としか言える言葉が無かった。
アレから二ヵ月。暑過ぎる程の日差しはすっかり影を潜めて代わりに辺りは物悲しい風とはらはら舞散る赤で世界が色づけられてくそんな季節になっていた。
そして今目の前には会いたくてたまらなかった漆黒の死神。
「元気してたか?」
「‥それなりに?」
「俺に会いたかった?」
「なっ…」
軽い問い掛けに素直に言葉は出てこなくて。驚きの余り口をぱくぱくさせていれば修兵は薄く微笑む。
「俺は会いたかったぜ?」
するりと一護の頬を指で撫でて口付けと共に落とすは甘い言葉。
そのまま口付けは深くなり自然に一護の腕はしがみ付くように修兵の背に回された。
「っん‥はぁ…」
吐息さえも甘く響く。
頭と背に回された修兵の手は一護の髪を撫であやす様に背中を叩く。
ドクン・ドクン
重なる肌と熱に感じるのは心臓の音。一護はひどく安心した気持ちになっていくのを感じた。
「一護に会って、こうやって抱き締めたかったぜ?ずっと一護のことばっか考えてた」
真っすぐ見据えてくる瞳に恥じらいや偽りはなく、ただ素直に真実を告げてくる修兵に対して一護も自然と素直に口を開く。
「俺も…修兵に会いたかった‥」
見る見る内に顔を真っ赤に染めた一護は恥ずかしさからか修兵の胸に顔を埋める。耳まで赤くなってしまって隠す意味は殆ど無いが。
そんな一護の行動に修兵は微笑し愛しさが募る。
「一護」
やんわり背中から腰辺りを擽るように撫で耳に首筋に触れる唇。ぴくり反応を返す一護の頬を両手で上向かせて。重なり合うひどく甘い口付け。
「ん‥ぅ…」
くちゅりと音をたてながら舌と舌が絡まり隙間からはどちらともなく液が零れ一護の胸元を濡らす。
修兵は一護の髪を優しく梳いてそのまま服をはだけさせると濡れた胸元に吸い付いた。
「…んぁ…っ」
赤い跡を一つ残して胸の飾りを舌先で転がしてやれば一護は鼻から抜けるような声を洩らす。
「もっと鳴いて、一護。声聴きてぇ…。」
「ひ…ぅっ…修兵…」
舌はそのままに胸元で囁く。髪から首筋、背中から更に下へ指を滑らせれば一護は修兵の望みどおり鳴いて。ぴくり身体を捩ってそれでも抵抗は無く。
縋り付いてくる両腕と己を呼ぶ一護に煽られて修兵の顔は緩んで。沸き起こる愛しさ。
「ゴメ…一護。俺止まんねぇ‥かも…」
「ん‥謝んなくていぃ…」
潤んだ瞳と切なげな顔して『俺も修兵が欲しい』って濡れた唇が動いたのを修兵は確認した。
その姿に言葉に二ヵ月間溜まり溜まった修兵の欲は簡単に溢れ、無いに等しかった理性は陥落して。
「後で何でもしてやっから」
謝罪にもならない謝罪を告げて一護を組み敷いた。
「っあ…ぅ…やぁっ」
一護は仰向けに膝を割られその間に修兵の身体が割り込み中には指が埋め込まれて。
ぐちゅぐちゅと抜き差しを繰り返し胸への刺激を受ければ一護の身体はびくびくと震えるばかり。
修兵は埋め込んだ指はそのままに開いてるもう片方の手で内腿の柔かい肌の感触を楽しみつつトロトロと先走りを零す自身に触れてやれば声はより一層艶やかさを増して。
「やぁっ…修、兵ッ!も、きてぇっっ…」
「…はっ…一護最高ー…」
煽って、煽られて。
想い合って、求め合って。
これってかなり幸せな事じゃねぇか。
修兵は薄く微笑して指を引き抜いて一護の蕾に先走りを塗りたくる。
「ん‥ぁっ」
既に堅くなってる自身を宛てがえば一護の身体が一瞬震えるのが見て取れて。
「挿れっぞ‥」
それでも繋がりたいのは、欲しいのは押さえられる事なんて出来るようなものじゃなく。
修兵は一護の中へ押し入っていった。
「っあ…っっ…!」
二ヵ月放置だった一護の身体は慣らしたといっても修兵を押し返すようにぎちぎちと締め付ける。
「一護…力、抜いて‥?」
修兵はグッと身体を倒して一護の耳元で殊更優しく囁く。締め付けられたまま中途半端で自分だってキツイはずなのに。
ゾロリと耳を舐めて耳たぶを甘噛みしてから舌を差し込んで。
「早く、一護と繋がりてぇんだ…」
熱っぽく直接脳に響くような言葉と声は一護の身体から力を抜くのには十分で。その一瞬に修兵は一護の中に自身全てを埋め込んだ。
「ぅあぁっっ‥!」
上がる一護の声は痛みからか快楽からか。修兵は一護の流れ出した涙を舐め取って。
「動くぜ‥」
今の修兵には一護を気遣う余裕なんて欠片もなく。
熱く包み込んでくる食い千切られそうな締め付けに簡単に追い詰められて。それを何とかやり過ごして性急に挿入を始めた。
「あっ…修ッ‥しゅうへ…っ…」
譫言の様に繰り返し名を呼ぶ一護の声は震えて何よりも卑猥に響いて、内壁を摺り上げるたびにキツク締め上げる中に激しく高められる。
「一護…」
修兵は啄む様な口付けを降らし一護もそれに答えるかのように縋りついて。
二人存分に貪り合って後はただ快楽に呑まれるだけ。
「修兵っ…も、イくっ…」
「ん、良いぜ‥」
言って修兵は一護の前立腺目がけて挿入を繰り返して、一護の自身に指を絡めて扱きつつ先に爪をたててやった。
「ひっ‥ぁ、ああっっ!」
一護は痙攣したかのように身体を震わして白濁を己と修兵の腹に撒き散らした。
「もうちょっと我慢な」
吐精の余韻に浸る一護の腰を掴んで唇に一つ口付けを落として修兵は最奥から限界まで引き抜く挿入を繰り返した。
「…ぁ…ひぁ‥っん…」
敏感になった一護は揺さ振られるたびにまるで射精を促すように修兵を締め付ける。
「…っく…出すぜ…」
「ひっ…熱ぃっ…」
修兵が呻いたと同時に一護の中に流れ込む精。
一気に引き抜けば結合部分からはぐちゅっと言う卑猥な音がしてトロリと溢れてきた。
「ん‥‥」
内腿を滑る感覚に身震いして一護は呻く。
そんな一護を抱き締め修兵は一護の横に沈み込んだ。
「ワリ、張り切りすぎた」
視線がかち合えば悪怯れなく笑顔で言う修兵に一護も笑う。
「ん…いいって言ったし。」
飛び散った精液を舐めながら修兵はまた一護に口付けて
「明日は非番だから今日はずっと一緒にいられるぜ」
「マジでッ!?」
何時も仕事があるからと朝には帰ってしまうのを淋しく思っていた一護はその台詞に食い付いた。
修兵はそんな一護にますます笑みを向けて
「おー。マジ、マジ。…だから今日は朝まで愛してやんぜ?」
「…ぁ?」
ニヤリと言い放つ修兵を一護はポカンと見つめて
「……なっ!バカッ!!」
漸くその言葉の意味を理解した一護は名前のごとく真っ赤に染まった。
「まぁ、遠慮すんな。何時の間にか季節も秋だし、食欲の秋っつう事で二ヵ月分美味しく頂くから」
そう言って修兵はやる気満々にまた一護にのしかかって顔を寄せる。
「…マジで馬鹿じゃねぇの…」
そうは言うものの一護は拒めない自分に苦笑して修兵からの口付けを素直に受け入れた。
人恋し、物哀し
舞散る赤は暗闇染めて
長き遅き夜明けは
二人で迎えよう。
終
.